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||| 願いごと、三つ |||


 その日、おかしな夢を見た。

 真っ暗な空間。あてもなく歩いていると、目の前に一人の人物が現れた。
「んん? 君、なんでこんな所にいるの?」
 肩より長い黒髪を一つに束ねた長身の男。そいつはオレを見た途端そう尋ねた。
「なんでって……お前こそなんでこんな所にいるんだよ。つーか、それ以前にここはどこ」
 オレはそう訊き返したが、そいつはそれを無視してオレの顔をまじまじと眺めた。そしてぽん、と手を叩いて納得したように言う。
「あ〜なるほど。ないことはない。うん、まぁありえることだ。でも珍しい」
「は? 何がだよ」
「うーん、こんなことなら馨子キョウコさんも連れてくるんだったなぁ。きっと面白がってくれただろうに」
 再びオレの言葉を無視して独り言を続けるそいつ。オレがイライラしていると、ようやくこっちを向いて言った。
「いや〜、少年! 君運がいい。すっごく運がいい」
「は? だから何が? でもってお前は誰」
「俺? 俺はアレだ。雅藍堂の店主、トキさんだ。今日は出張サービスってとこだな」
「がらんどう? 出張サービス?」
 わけがわからなかった。けれどそいつ――自称「店主のトキさん」は、勝手に話を進めていく。
「ここで会ったのも何かの縁。出会いの記念にうちの商品を――と言いたいところだが、あいにく俺は今なんの持ち合わせもない」
「はぁ」
「だが案ずるな少年! 代わりに君が充実した人生を送れるよう、この太っ腹な俺がなんでも願いを三つ叶えてやろう。さぁ願え」
「はい? 充実した人生? 願い?」
「地位に権力、巨万の富。世界征服から絶世の美女までなんでも来いだ。あ、ただし願いを叶えられる数を増やしてくれってのはなしな。それ反則だから」
 夢だ。
 オレは一瞬にして悟った。これは夢だ。だったらこのノリに合わせてやろうじゃないか。
「ほ〜う、ホントになんでも叶えてくれるんだな?」
「少年、俺に二言はない」
「よし。それじゃあ……金」
「カネ?」
「そうだ。金だよ金。現金、マネー、キャッシュ。大金をオレにくれ」
 どうせ全部夢の中の出来事だ。何を言ったって構わない。
「なるほどねぇ。いいよ少年、実にシンプル。人間生きてりゃ誰だって一度は望むことだ」
「で? さっさと叶えてくれよ」
「まぁそう焦るなって。すべては目覚めてのお楽しみ」
 あ、これやっぱり夢なんだ。
「そんじゃあ行くぞー。歯ぁ食いしばれ」
「は?」
「少年! 君は大金を手にするだろう!」

 ボゴォッ

 鈍い音がした。
 目が覚めると、それはやっぱり夢だった。けれど俺の左頬には確かな痛みが残っている。
 炸裂したのだ。トキさんの右ストレートが。

 その日一日、結局変わったことは何一つなかった。もちろん大金を手に入れたりするようなこともない。
 ――と思っていた放課後。校門をくぐったオレに見知らぬ老夫婦が駆け寄ってきた。
「あなた! お名前はなんて言うの?」
 品の良さそうな婆さんがそう言って詰め寄る。
「西本 貴樹、ですけど」
「貴樹さん! どうかこれを受け取ってください!」
 そう言って見るからに紳士な爺さんが、オレに無理やり大きなバッグを押しつける。
 ズシリ。これはかなり重い。一体何が入っているんだとファスナーを開けてみると――
「おおぅ!? なんだこれ!?」
 思わず叫んでしまった。
 中に詰め込まれていたのは大量の札束。テレビでよく見る百枚ごと束になっている福沢さんだ。
「なんなんですかこの大金は!」
「実は私たち、とある資産家なんです。けれど見ておわかりの通り、二人とももう年。老い先短い人生でしょう。けれどそう考えた時、私たちには子供も孫もおらず、残った財産を受け渡す相手がいないのです」
「遺産相続で親族同士醜い争いをして欲しくはありません。だから考えたのです。そうだ、いっそのこと赤の他人にお渡ししよう、と」
「はぁ……それがオレ、ですか?」
「はい。私の誕生日の今日、主人の母校であるこの高校から出ていた百人目の方に、と」
「はぁ……それがオレ、ですか」
「はい」
 呆然としているオレと大金を残し、老夫婦は満面の笑みで去っていった。
 二人の説明はあまりにもぶっ飛んでいたが、オレは夢の出来事の通り大金を手にした。

 その日の夜、再びおかしな夢を見た。

「どーよ少年。願いは叶ったか?」
「ああ! マジでありえないほど無理やりな展開だったけどな!」
「いいじゃないか。理由はどうあれ君は大金を手に入れたんだ。思う存分喜ぶがいい」
「おうよ。やったぜ!」
「うんうん。そうやって素直に喜んでもらえると、俺も叶えた甲斐があったよ。さて少年。次の願いはなんだい?」
「ホントに三つ叶えてくれるんだな? よし、それじゃあ次は……」
 ちょっと考える。大金が手に入ったんだ。どうせなら次は金では解決できないことを叶えてもらおう。
「オレさ、今大学受験の真っ只中なんだよ。でも第一志望の大学がいまだにE判定のままでさ。担任にも絶対無理だから諦めろって言われてるんだけど」
「おーっと、みなまで言うな。わかったわかった。それで、君の頭じゃ到底合格できない大学に入れてくれって言うんだな?」
「まぁ……そういうことだよ」
「うん、わかりやすくて実にいい。それじゃあ早速叶えてやろう。歯ぁ食いしばれよ少年ー」
「は? え、ちょ、待て待て! またそれか!?」

 ボゴォッ

 鈍い音がした。
 目が覚めると、やはり左頬はズキズキと痛みを帯びていた。
 なんなんだよ。普通願いを叶えるって言ったら、魔法のステッキでチチンプイプイってなもんじゃないのか?

 そしてその日一日、結局変わったことは――あった。放課後、担任に呼ばれたのだ。進路指導質に。
「西本。驚かずに聞いてくれ」
「はぁ。なんスか?」
「実はな……お前、第一志望の大学に入れるぞ」
「ええ!? あのE判定の大学にですか!?」
 そう言って驚くオレに、担任は何やら封筒を差し出した。
「そうだ。それもあちらの学長じきじきの申し出なんだ。なんでもお前が亡くなった息子さんにそっくりらしく、ぜひうちの大学に招きたい、と」
「はぁ〜」
 昨日に引き続き、相変わらず強引でぶっ飛んだ理由だった。けれど大学に入れることに変わりはない。オレは手放しで喜んだ。こうも人生上手く行っちゃってもいいのだろうか?

 その日の夜、またまたおかしな夢を見た。

「おいトキさん! マジで大学入れたぞ!」
「当然。俺が嘘つくわけなかろう」
「うっわ〜、サンキュウな!」
「どういたしまして。さて少年、三つ目は何を望む? 君の人生を充実させるための最後の願いだ」
 金、志望校。あと何があれば言うことなしだ?
 それはもう決まっていた。
「C組の佐藤さん! ライバル多すぎで諦めかけてたけど、オレの彼女にしてください!」
「ほほぅ、最後はそう来るか。なるほど、実に若者らしい願いだ。青春だねぇ」
「頼むぜトキさん!」
「任せときなさいって。そんじゃ行くぞー」
「ああ!? ちょい待ち! 今回はそれはなしの方向で――」
「問答無用!」

 ボゴォッ

 鈍い音と、左頬の痛み。
 けれどオレにはわかっていた。それは願いが叶う、確かな証拠だってことに。

 そしてその日の放課後、待ちに待った佐藤さんからの呼び出しが掛かった。場所は校舎裏。ベタすぎるシチュエーションだが、ここに呼び出されたとなればすることは一つだ。
「私、ずっと前から西本くんのことが好きだったの。つき合ってください!」
「よろしくお願いします!」
 実に不自然。実に急展開。
 けれどそんなことはどうだっていい。手にあまるほどの大金に、約束されたキャンパスライフ。そして隣には可愛い彼女。言うことなしだ。
 ああ、我が人生に悔いなし!
 オレは佐藤さんと並び、まさにルンルン気分で校門をくぐった。

 矢先。

 ドォンと激しい衝撃が体を突き抜けた。その瞬間、オレは空を飛んだ。……気がする。

「おお少年。やっと来たか」
「あれ、トキさん? なんでここに? オレいつの間に眠ったんだ?」
「何ボケたこと言ってんだ。ほら、みなさんお待ちだぞ」
「みなさん?」
 トキさんが指差した方向を振り向いた瞬間、眩しい光がオレを襲った。思わず顔の前に手をかざしてしまう。そして恐る恐る目を開いてみると――
「冷たッ」
 なぜかオレは川のど真ん中に立っていた。
 見ると、向こう岸には花畑がある。色とりどりの花に囲まれ、そこには数人の人が立っていた。みんなオレの方を向き、ゆっくりと手招きしている。こっちへ来いとでも言うように。
 ――あれ? オレ、この光景知ってる。オレの勘が正しければ、もしかしてこの川の名前は……
「三途の川? っていうか、あそこにいるの、去年死んだばーちゃん?」
 振り向くと、トキさんがにっこりと笑っていた。
「俺のおかげで悔いのない人生が送れたでしょ?」
「え? オレ死んだの?」

 ――西本 貴樹、享年十七歳。

FIN.



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