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*私を月に連れて行って


「……え?」
 ぼくは思わず耳を疑った。
「えっと……ごめん、なんだって?」
「だーかーらっ!」
 ルナは不機嫌そうに上目遣いでこちらを睨み、もう一度その言葉を言った。

「私を月に連れて行って!」



 ルナとぼくは、いわゆる幼馴染みというやつだ。それぞれの誕生日には、毎年プレゼントを交換し合っている。そしていつの頃からか、相手の誕生日の一ヶ月前に欲しいものを訊いておくことが暗黙の了解となっていた。
 来月はルナの誕生日。
 だからぼくは、ルールにのっとって、ルナに欲しいものを尋ねたのだけど――
「月に連れてってちょうだい」
 その回答がこれだ。
「むちゃ言うなよ。ロケットでも買えって言うのか?」
「もちろん、買えるのならそれでもいいわ」
「できるわけないだろ。バッグや指輪とはわけが違うんだから」
 ぼくの返事が気に食わないらしく、ルナはリスのように頬を膨らめた。
「やだやだ! 月に行きたいったら行きたいの!」
 おととしの誕生日にぼくがプレゼントした、なんとかというブランド物のバッグを振り回してルナは抗議する。その指には、去年の誕生日にやはりぼくがプレゼントした、シルバーリングの指輪が光っていた。
 身に着けているものは、すっかり大人の女性らしくなったのに、「やだやだやだ」を連呼して駄々をこねるルナは、子供の頃から少しも変わっていなかった。
「なんで今年はそんな無理難題を出してくるんだよ。かぐや姫のまねならよしてくれよ」
 ため息をついて横目で見ると、ルナはスカートの裾を握り締めてうつむいていた。へそを曲げたルナのお決まりのポーズだ。こうなった彼女はてこでも動かない。ぼくはもう一度ため息をついた。そして、小さな子をなだめるように言う。
「今はまだ、訓練を受けた宇宙飛行士だけがやっと行けるくらいなんだ。ぼくら一般人が月へ観光旅行なんて、あと何年かかると思ってるんだ」
「……じゃあ、できるようになるまで待てばいいじゃない」
「だから、それまでどれだけの時間がかかると思って――」
「どれだけかかってもかまわないわよ! 月に行けるような時代になるまで、ずっとずっと一緒にいてくれればいいじゃない!」
 その言葉で、ようやくぼくは、彼女が本当に欲しがっていたものを理解した。
「……なんだ、そんなことでよかったのか」
 ぼくは安堵と、それから、それ以上の嬉しさでつい笑ってしまった。
「お安いご用だよ」

FIN.

 


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