争い
「あー、暇だなー。
ちょっと城の通路を複雑にしすぎたか? それとも鍵の隠し場所が難しすぎたか……。それともまた四天王のやつらが張り切りすぎてんじゃねえだろうなあ。あいつら、ここに辿り着く前に諦めちまわねえといいんだけど」
「……魔王様。どこの世界に自分を倒しに来る勇者たちの身を案ずるラスボスがいるんです」
まおうは そっきんを みつめている
「……なんですか?」
「おまえはいいよなー。戦いにも参加しないで、ときどき現れては、『魔王様! 勇者たちが西の砦を突破しました!』とか言うだけでいいんだもんなー」
「何を言うんです。側近といえば、魔王の強さを演出する、なくてはならないオプションではありませんか」
まおうは ぎょくざから たちあがった
「どこへ行かれるんです?」
「ちょっと街まで」
「おお! 娘を攫ったり、貢ぎ物を要求したり、魔王らしい活動に勤しむわけですな!」
「いやバイト」
「バイト!?」
そっきんは すっころんだ!
まおうは しゅういを みまわしている
だが くらくて よくみえない
「そこらじゅうクモの巣だらけでほこりまみれ。おまけに明かりはろうそくだけって、どんなお化け屋敷だよ。これじゃあ来る客も来ないわけだ。だからちょっと改築資金を調達しに。ついでに有名な建築デザイナーを呼んで」
そっきんの こうげき!
そっきんは ぶあついほんを なげつけた!
まおうに 28の ダメージ!
「あだッ! 何すんだよ!」
「魔王の居城がピカピカの新築だったら迫力も何もないでしょうが! だいたいバイトとはなんです、バイトとは。もっと魔王らしいことをしてください!」
「……そう言うけどなあ。今日び流行らねえんだって、なんの理由もなく世界征服とか目論んでるラスボス。今はあれだぞ? 過去に傷を持った悲劇的な敵キャラが人気らしいぞ?」
「敵に人気など必要ありません。強さと悪、それだけあればいいのです」
「悪、ねえ……」
まおうは ものおもいに ふけっている
「それなら勇者は俺らに感謝すべきだと思わねえか? あいつら、魔王っつー倒すべき存在がいなけりゃ、単なるちょっと腕の立つ田舎者の剣士とか、よくって王宮に仕える兵士とかだろ? 国王にひのきのぼう一本で依頼されただか異世界からやってきた美少女に協力するためだか知らねえけど、勝手にひとんちのタンスや壷ん中あさって、悪はどっちだよっつー話だ」
「まあ、確かに世界平和の旅にかこつけて、犯罪行為が黙認されているところはありますが……」
「だろ? それに考えてもみろよ。なんで俺、わざわざ勇者のレベルが上がるまで待っててやってるんだ? あっちの強さに合わせて部下配置して。おまけにこっちは一人なのに、あっちは大人数だなんて卑怯じゃねえか!」
まおうは いかりを ためている
「俺の知り合いは、一対八で袋叩きにあったそうだ。聞いた話じゃ、百八人も仲間を引き連れてきた恐ろしい勇者もいるらしい」
「な、なんと……。それでは集団リンチと変わりないではないですか!」
そっきんは ふるえている
まおうは でぐちへ むかった
「ちょっと道具屋でアイテム買ってくる」
そっきんは あしを ひっかけた!
まおうは つまづいて ころんだ!
「いってー!」
さいわい けがは なかった
「アイテムを使うだなんて、魔王として恥ずかしくはないのですか!」
「だってよー。俺は一回やられたらそこで終わりなのに、あいつらはアイテム使って何度も復活してくるんだぜ? ぜってー不利じゃねえか」
「だからといって、それはなりません」
「ちぇー」
まおうは いじけている
ゆかに ののじを かいた!
しかし そっきんの こころには ひびかない!
「あーあ、魔王って損な役回りだよなあ……」
ダダダダダッ
てしたAが へやに かけこんできた
「勇者一行、現在最後のセーブポイントで全回復中! 三分後にはこちらに到着の予定です!」
「お、やっと来たかー。ようやく俺の出番だな。
側近、BGMかけて。……あ、これ違うな。これは戦闘に入ったときのやつだわ。それじゃなくてもっと控えめの……そう、それそれ。んで手下A、第二形態になったときのフラッシュ忘れないように。この前ちょっとタイミングずれてたから」
「はっ!」
てしたたちが はいちに つく
まおうは ぎょくざに こしかけた
そっきんは まおうの かたわらに ひざまずいている
まおうは くろい オーラを せおった!
あたりに おどろおどろしい ふんいきが ただよった!
バターン!
えっけんのまの とびらが ひらかれた
「ふはははは! 待ちくたびれたぞ、勇者よ!」
きょうも せかいでは へいわな あらそいが おこなわれている
FIN.