*花嫁


 二番目でいいの、と彼女は小さく微笑んだ。
 できた女だと思う。

「なんて言えばいいのかな――ごめん?」
 疑問形で謝ると、彼女はまた笑った。今度はちょっと、あきれの色が混じっている。
「どうして謝るのよ」
「……だって、ほかに言葉が思いつかなくて」
 口をついて出たのは正直な言葉。
 といえば聞こえはいいけれど、結局のところ、気の利いた台詞が一つも浮かんでこなかったのだ。言い訳はあれこれ考えたんだけど。
 彼女はもうすぐ、僕の一番ではなくなる。
 僕にはもっと、大切な人ができる。
 それでもいいと、彼女は笑った。そんな僕が好きだと、彼女は僕を受け入れてくれた。
「わたしは嬉しい」
 先の予定も、僕らの関係も、彼女の未来すら大きく変えられてしまったのに。
 たった一人の存在に、すべてを書き換えられてしまったのに。
 彼女はまっすぐ僕の目を見て言った。
「嬉しいの。だから、謝らないで」
「……じゃあ、一つ訊いてもいい?」
「なに?」
「……今、幸せ?」
 少しくらいは悩むしぐさを見せるかと思った。
 思ったのに、彼女は迷うことなく即答した。
「すごく幸せ」
 そこには、嘘偽りのない笑顔が咲いている。
 その幸せは、僕があげたものなんだと、うぬぼれてしまってもいいだろうか。
「だから、わたしは甘んじてあなたの二番になるわ」
「……ありがとう」
「うん。最初からそう言ってほしかったんだから。ごめん、じゃなくて、ね」
 二人だけの緩やかな時間が、ドアのノックに破られる。
 さあ、もう行かなくちゃ、と彼女は席を立った。
「でも――」
 去り際、彼女が振り返る。
「もう少し。この子が生まれるまでは、あなたの一番でいさせてね」
 純白のドレスをふわりと翻し、彼女は部屋を出ていった。

 本当に。
 僕にはもったいないほどの花嫁だ。

FIN.

 


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