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 空一面を厚い黒雲が覆い、刺すような北風が吹きすさぶ午後。その日、町は異様な雰囲気に包まれていた。

『こちらA班、異常なし』
『B班、待機地点より西南に移動中』
『C班、座標X112、Y78に到着。周囲に怪しい気配はなし』
『了解。一般住民の避難はすべて終了した。各班、くれぐれも気を抜かないように』

 トランシーバー越しに、『了解』の声が重なる。通信が一時終了し、辺りは静けさに包まれた。
 いつもならたくさんの車や通行人が行き来しているはず大通りが、今日は人っ子ひとりいない。商店はどこもシャッターが下り、家の扉にはすべて鍵が掛けられている。まるで世界の終末を思わせるような、不気味なほどの沈黙。
 そんな中、建物の影に、公園の茂みに、黒装束に身を包んだ男たちが隠れ潜んでいた。それぞれの手には、重く黒光りするマシンガン。迎え撃つ標的は今や遅しと息を殺している。

『ヤツだ!』

 のろしが上がった。
 戦いの始まりを告げるその声は、回線に乗って各員に伝わる。場所は座標X309、Y126。アパートが建ち並ぶ住宅地。
 近くに待機していたE班がただちに現場へ急行する。
 そこではすでに戦闘が繰り広げられていた。真っ先に発見した男が、孤軍奮闘、マシンガンを手に敵を攻撃している。そこに駆けつけた援軍もすかさず武器をとり、砲撃を開始。ほどなくして住宅地は戦場と化した。

「撃てー! 撃て撃てー!」
「弾を惜しむな! 逃がすんじゃないぞ!」
「去年の恨みを晴らしてやれ!」
「今年こそは圧倒的勝利で終わらせてみせる!」

 マシンガンとともに男たちが咆哮を上げる。
 しかし敵の動きはきわめて素早く、目で追うのがやっとなほど。四方八方から弾丸を浴びせかけるが、致命的な一撃を与えるには至らない。
 そうこうしているうちに、敵は姿を暗ませてしまった。今年もまた逃がしてしまったと、男たちは落胆の息をついた。


 住宅地から少し離れたビルの屋上に、小さな人影が一つ。むき出しになった赤黒い肌には、腕にも脚にも大小の打撲ができている。肩を大きく上下させ、息も絶え絶えといった様子だ。
「ひ、ひでーめに遭った……」
 地上を見下ろせば、自分を血眼で捜しているであろう幾人もの男たちが走り回っている。その手に握られている銃器にぶるりと背筋を振るわせた。
「なんなんだよこの町……。いきなり撃ってくるなんて聞いてねーぞ……」
 愚痴をこぼしながら、鳥の巣のような髪にうずまっていた弾丸の一つを取り出す。そして無造作に口の中へと放り込んだ。
「豆はうまいけど……俺は子供のへそが欲しかっただけだっつーの!」
 自慢の角が傷物になっていないかとさすりながら、雷様は天に帰っていった。

 今日は二月三日、節分の日。

FIN.

 


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