*


 このまま雨、ずっとやまなければいいのに。


 そう呟いた私を、あなたは不思議そうに見たよね。変わってるって。
 あなたは雨の日があんまり好きじゃないみたい。濡れるし、じめじめしてるし、憂鬱だし。こういう日には外に出たくないって、いつも言ってた。
 でも、私は雨の日が好き。あなたと出逢って、雨の日は特別な日に変わった。

 しとしとと糸のような雨の降る日。
 夕食の準備をしていると、携帯にあなたからメールが入る。開いてみれば、傘の絵文字が一つだけ。
 雨の日の、私とあなたのお決まりのサイン。
 駅で立ち往生しているあなたを迎えに、家を出る。傘はわざと一本だけ。
 そんな私を見て、最初あなたはドジなやつだなあ、なんて笑ったけど、今ではもう私の思惑に気づいてしまったみたい。でも何も言わず、あなたは傘を受け取ってくれる。代わりに私は、あなたの鞄を持って。
 それで、相合傘。
 あなたは仕事の愚痴をこぼしたりして、私はスーパーでの戦利品を報告したりして。他愛もない話をしながら家路を歩く。駅から家までの道がずっと続いていればいいのに、なんて、心の中でこっそり考えているところまでは、あなたは気づいていないかな?

 雨の日は好き。
 あなたと並んで歩けるから。あなたの隣を独り占めできるから。

 私は今日も傘を持って駅へ向かう。梅雨に入ったから、ここのところは毎日。
 でも、全然苦にならない。だって、こうしていれば、あなたが笑って改札口から出てくるから。ごめんごめんって謝ったあと、ありがとうって傘を受け取って。そうして今日も並んで帰るの。
 早く、来ないかな。
 まだかな。
 まだかな。
 私はいつまで、待てばいいのかな……。

 交差点に置かれた白い花を眺めながら、今日も私はあなたを待っている。


 このまま雨、ずっとやまなければいいのに……。

FIN.

 


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