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*音楽


 彼女曰く、ドは赤色なのだという。
 いったいなんのことなのかと思った。
「ロゴの色……ん? でも、『ド』も『ラ』も『え』も、全部青じゃなかったっけ?」
 そう言って、携帯についているストラップのキャラクターを指差すと、彼女はふるふると首を振った。
「あー、ドラゴンボール? でもあれはカタカナじゃなくてアルファベットだよ?」
 最近彼女がはまっている漫画を挙げるが、またしても違うという意思表示。
 それじゃあいったいなんの話かと尋ねると、答えの代わりに彼女は、レは黄色かな、と付け加えた。
 ド、レ。
「……じゃあ、ミは?」
 曰く緑。
 なるほど。
 嘘かまことかどちらにせよ――彼女にとって、音はそんなふうな色を持って見えているらしい。
 さらに付け加えれば、ファはオレンジ、ソは青、ラは紫、シは白……待て待て、それは『ドレミの歌』に多少なりとも影響を受けているんじゃないか? とも思ったが、ともかく彼女にはそう見えているというのだ。彼女の視覚を借りない限り、これは確かめようがない。本人がそうだというのだから、そうなのだろう。
 それに、裏付ける事実はある。
 学校の授業以外で楽器に触れたことのない彼女なのだが、なぜか絶対音感のようなものを持ち合わせているのだ。ピアノの鍵盤を適当にポーンと押して、さあこれはなんの音でしょう? というのにあっさり答えてしまうアレ。もしくは、日常の生活音が――たとえば、水道の蛇口からしたたる水滴の音が、音階に聞こえてしまうアレ。
 現に彼女は、三和音程度なら簡単に当ててしまうことができた。
 まあ生まれつきそういった能力を持っている人もいるのだろうくらいに思っていたけれど、まさか、その理由が『色』だったとは。
 わかりやすく言えば、それは花火。
 さまざまな色が空中にぱっと散るように、彼女には音が視覚化している。優しい曲なら花びらがふんわりと舞うように、激しい曲なら爆竹が炸裂するように。色が鮮やかに踊りだす光景は、それは美しいものなのだという。
 だから音楽が好き。
 彼女は微笑むと、続きを弾くよう催促した。私はうなずき、楽譜をめくる。
 生まれつき耳の聞こえない彼女の目に、私のピアノはどんなふうに映っているのだろう。

FIN.

 


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