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*モンスター


 とある村の東に、深い深い森がありました。
 緑が多い茂り、きれいな泉が湧き出でる美しい森です。けれど、村人たちは誰一人として近寄ろうとしませんでした。
 なぜならその森には、恐ろしいモンスターが住んでいたからです。
 モンスターと村人たちの姿は、それほど変わりはしませんでした。背丈はおとなと同じかそれより少し低いくらい。二本の足で立って歩き、五本の指を持つ手で器用に道具を操ります。
 違っているところといえば、顔の横についた耳の先が少しとがり、瞳の色が深い紫色であることでした。それから、村人たちには聞き取ることのできない言葉で話します。
 こうして挙げてみると些細な違いかもしれませんが、これは重大なことなのです。
 とがった耳は悪魔の証だし、紫色の瞳も闇に染まった印。聞き取れない言葉はまるで呪いをかけるときに呟く呪詛のようでした。だから当然、村人たちは彼らと仲良くすることなどできないのです。

 ある日、村に住む一人の少年が、おもしろ半分で森に入ったきり帰ってこなくなりました。
 これは一大事だと村人たちはざわめきだちます。
 少年はモンスターどもに捕らわれてしまった、もしかしたら食べられてしまったかもしれない。そんなふうに噂する人々もありました。
 けれど、村人たちは勇敢にも立ち上がりました。斧を手に、鎌を手に、男たちは列をなして森へと分け入ります。女たちはその背中に祈りと励ましの声を投げかけます。子どもたちは兄と父親の巧を信じて待ちました。
 すべては村をおびやかすモンスターを退治するためです。

 一夜明け、男たちは村へと帰還しました。傷を負っている者もありましたが、その数は出発のときと一人も欠けていません。欠けてはいませんが、一人多くなっていました。いなくなった男の子を、無事見つけることができたのです。
 男の子は村人たちが心配していたとおり、モンスターの住処に捕らわれていました。その足には切り傷ができています。もちろん、やつらに襲われたときにできたものに違いありません。
 そしてそのような残忍なモンスターどもはどうなったかというと、誇らしげな男たちの顔を見ればわかるとおり、見事に成敗することができました。
 やつらは思いのほか弱かった、と男のうち一人が祝杯を掲げて笑いました。驚いたことはといえば、斬りつけたときに噴き出した血が、自分たちと同じ赤い色をしていたことです。そしてやつらは事切れる間際、全員が全員、こちらを睨んでおぞましい呪詛を吐いたといいます。呪いがかけられていないか、男たちはそれだけが心配でした。

 それからしばらく平穏な月日が流れた頃、その穏やかさを破る噂が村人たちの耳に届きました。
 なんと、モンスターの生き残りがいるというのです。それも、森を挟んだ向こうにある隣村にかくまわれているという話でした。
 村人たちは再びざわめきだちます。ですが、一度モンスターどもを退治した精鋭揃い。戸惑うことも、ためらうこともありません。男たちは武器を手に、隣村へと向かいました。

 今度も男たちは成し遂げました。それぞれの顔には、以前よりもずっと誇らしげで満足げな表情が浮かんでいます。
 先頭を歩く男が勇ましい笑顔で腕を振り上げました。そして声高らかに叫びます。
 残りのモンスターと、モンスターの手先どもは残らず倒してきたぞ、と。
 村に歓声が響き渡りました。
 そんな男たちを、一人、複雑な表情で迎えたのはくだんの少年です。
 怪我をして動けなくなっているところをモンスターに助けられたのだ、とは、最後まで言えずじまいでした。ほんの少しだけ胸がうずきましたが、これでよかったのだと納得させます。だって村人たちはこんなにも嬉しそうなのだから。

 さて、本当のモンスターはどちらでしょう?

FIN.

 


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