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便利屋×冥探偵日誌 1


想イ人、未ダ来タラズ



 武史はその先客をまじまじと眺めた。やけに落ち着いた童顔の優男と、どこからどう見ても今時の女子大生という2人連れ。ここが大型テーマパークならばその組み合わせでも頷けるが、残念ながらここは山林の中にたたずむ曰く付きの幽霊屋敷。その玄関先なのだから、ピクニックだとすれば随分と趣味が悪い。もっとも、こちらも20歳の若造が高卒すぐの小娘を連れているのだから他人のことは言えないのだが。そんなことを考えていた武史に、その物腰が穏やかそうな男が話しかける。
「あの、どういった御用でこちらにいらっしゃったんでしょうか? 観光地には程遠い場所だと思うのですが」
 どうやらこの男も武史と同じことを考えていたらしい。ひょっとしたら今の自分と同じように、相手が同職ではないかという予感を持っているのかもしれない。武史は男に聞かれる前に名乗ることにした。
「ああ、俺はこういうもので……」
 そう言って差し出した名刺を男が見ると、そこには「龍幻寺探偵社 社長 龍幻寺武史」と書いてあった。
「住所は福岡県……ですか」
 そう言うと思い出したかのように慌てて懐を探り、飾り気の無い名刺入れを取り出した。
「僕はこういう者です」
 武史は差し出された名刺に書かれた文字を読む。
「高橋探偵事務所、所長……」
 男はにっこりと笑い、後に続く文字を声に出した。
「高橋柊一朗と申します」
 2人は自らのの素性、連れている助手について簡単に紹介すると、仕事の内容について話すことにした。ひょっとしたら協力できるかもしれない。まず最初に話したのは柊一朗の方――といっても主に喋っていたのは助手の碧乃という女子大生で、柊一朗は「うん」とか「そうだね」と相槌を打っていただけなのだが――で、まあ、ようやくすると次のような感じだった。
 彼の兄がこの屋敷の持ち主と知り合いで、なんでも持ち主がこの屋敷を取り壊そうとしているだが、「物が飛んできて怪我をする」とか「和服姿の女性が歩き回る」といったことが起き工事が滞っているとのことで、何とかして欲しいと柊一朗の事務所に兄を経由して依頼があったとのことだ。
「……で、あなたはなぜ福岡からこちらの方へ?」
「ああそれなんだけど、慰安旅行のついでなんだ」
 武史は事の次第を話し始める。


「行こうよ! 慰安旅行!」
「お前はどこでそんな物騒な単語を覚えてくるんだ?」
 武史の助手である魅貴は少しいじけながら反論する。
「だーってアレじゃん。毎日仕事仕事で全然息抜きなんて無いじゃん。だ・か・ら、経費で行こうよ。どっか」
「んなこと言ったってだな……」
 そこにスーツ姿の女性が事務所に入ってくる。
「なんだなんだ? おまえ福利厚生という言葉も知らんのか。部下を大事に出来ない上司は嫌われるぞ。魅貴、その慰安旅行、東京でもいいか?」
 その言葉に魅貴は色めき立つ。その横で武史は冷ややかな目でそのスーツの女性――それは鬼堂という名の死神である――に質問する。
「あのなあ、ぬか喜びさせてその旅費はどっから出るんだよ?」
「ああそのことだがな、とりあえずこれだけあったら足りるか?」
 鬼堂の手には福沢諭吉が10人ほど握られている。
「じつはな、東京の方でちょいとヤバめの自縛霊がいてな、死神仲間が手を焼いているらしいんだ。ちょいと行って来てもらえるか?」
「ちょいとって……分かったよ。行くよ。その代わり何だ、成功報酬は別なんだろうな?」
「安心しろ、成功報酬は別だ。観光費用、旅費、宿泊代、外食費全てこちらで持とう」
 武史は素直に驚く。
「えらく大盤振る舞いだな。どうした?」
「んー、まあちょいと後輩にいいとこ見せたくてな、安請け合いしてしまったんだよ。観光のついででいいから、な、とにかく頼む」
 そう言うと鬼堂は場所の説明を始めた。


「……と、言うわけだ。ちなみに今日はタワーに上って模型とノッポンぬいぐるみ(大)を購入した」
 その話を目を輝かせながら聞いていた碧乃は興奮して尋ねた。
「で、で、その死神って友達なんですか! 凄い! ど、どんな格好なんですか? 痩せたお爺ちゃん?」
 武史はうんざりした表情を作ってみせ、「性悪女だ」とそれだけ答えた。
「それならお互い協力しませんか? お互い同業ということで」
「ああ、俺もそう考えていた」
 武史と柊一朗、魅貴と碧乃はお互いに握手を交わすと、玄関を大扉を開けると中へ入る。全員が入り少しばかり歩いたその時、入り口の大扉が大きな音を立てて勢いよく閉ざされる。
「うわっ!」
 その声に武史が振り向くと柊一朗が胸に手を当て碧乃に話しかけている。
「あー、びっくりしたー。」
「もう、先生だらしないですよ? 恥かしいじゃないですか」
 このコンビに武史は少し後悔した。本当に使えるのだろうか、と。
「あ、女の人!」
 魅貴が前方の大きな階段を指差すと、柊一朗と碧乃もその方向を見る。
「ほんとだ綺麗な女の人」
「和服姿ですね」
「……そうなのか?」
「「は!?」」
 東京のお二人さんは武史の言葉に驚きの声を上げた。
「……はいはい、どうせ俺には見えませんよ」
 いじけるように呟くと魅貴に状況を聞く。
「踊り場のところ、私たちを見てる」
「そうか、じゃあ……」
 武史が一歩前に出ると、その女は階段をすべるように上がる。柊一朗を先頭に後を追うと、2階には廊下があり、そこには何枚もの木の扉があった。
「扉……この中のどこかにいるんでしょうか?」
 そう言って柊一朗は用心しながらも一番手前の扉を開ける。中は埃がかぶったカーペットに机、質素なつくりとなっていた。
「金持ちの大きな屋敷だ。おおかた使用人の控え室だったんだろう?」
 そう言って武史は次の部屋へ行こうとする。と、背筋にぞくりと寒気が走る。
「いるのか?」
 尋ねられた魅貴は一点を見つめたまま答える。
「うん、お婆さん。それに、何か悲しそうな顔してる」
 部屋の中を見つめ、相手の出方を伺う四人に対し、その老婆は武史にも分るように話し始めた。
「お客様……ようこそ蕪木邸へ……」
 柊一朗がその声に答える。
「あなたはこちらにお使えしている方ですか?」
「はい。もっともお使えしていたのはかれこれ60年と少しばかり前でございます。私は前田フサエと申します」
「フサエさん、あなたはなぜここにおいでなのですか?」
 フサエはいっそう悲しげな表情になり、言葉を紡ぎ始める。
「奥様は、しの様は大変お可愛そうな方でございます。あれは終戦の年の初夏でございましたでしょうか。旦那様に召集令状が下り、病弱な奥様を残して翌日出兵されました。その後戦況が悪化致しまして、奥様も旦那様の安否を本当に気に病んでおりました。やがて日本は敗戦を迎えまして、本土にも続々と引揚者が戻ってまいりました。しかし、旦那様は一向にお戻りになりません。奥様は来客があるたびにいつも玄関までお出迎えをなさって、旦那様のお戻りを今日か明日かと心待ちにしておりました。しかしそれがかえってお体に障ったのでしょう。奥様は臥せってしまわれました。その後一月ほどして奥様はお亡くなりになる間際には私の手を取り、『あのお方はいつ帰ってこられるのか』とお泣きになりながら逝ってしまわれたのでございます。女中頭である私は使用人皆で奥様をお弔いいたしまして、私どもは国に帰らせていただきました。その後旦那様が戻られたという噂も聞かず、60年程が経ってしまいました」
「それで、あなたはなぜこの屋敷に戻ってこられたのですか?」
「はい。先日私は死にまして、その際当時お世話になった奥様にご挨拶に伺おうと奥様のお墓に参りましたところ、そちらではなくお屋敷のほうにいらしゃるとわかりましたので、こちらに身を寄せさせていただいているというわけでございます。どうか、奥様を成仏させてくださいませ。奥様が気がかりで私は……」
 悲しげな顔で聞いていた柊一朗はできる限り明るく元気付けるように励ました。
「分りました。僕たちが何とかしましょう。ね、龍幻寺さん?」
 武史は優しく笑うと腕組をして「もちろんだ」とそれに答える。四人は深々とお辞儀をするフサエに一礼すると、教えられた通り一番奥の扉へ進む。一度深呼吸をすると、またも柊一朗がドアを開ける。部屋の中は少し温度が低く空気が澱んでおり、中には先ほどの着物の女性――蕪木しのが椅子に腰掛けこちらを見ている。四人は部屋の中に入ると、しのを見つめる。その視線に答えるように、しのは涼やかな声で話し始める。
「どちら様で、ございましょうか。生憎と亭主は未だ戦地から戻っておりませんので、御用でありましたら私が代わって伺いますが……」
 武史は一歩進み出る。
「俺たちは旦那さんにではなくあなたに用があってきたんだ」
「私に?」
「奥さん、この屋敷はもうすぐ取り壊される。もう戦後60年以上経ったんだ。もう、いいんじゃないか?」
「何が、言いたい……」
 柊一朗が後に続く。
「その、信じたくない気持ちは分ります。ですが……」
「うるさい……」
「いい加減に目を覚ませ。旦那さんはもう……」
「ウルサイ!!」
 その声は女性のそれではなかった。しのは肩を震わせながら肘掛けを握り締める。
「ウルサイ……ウルサイウルサイウルサイウルサイ!!」
 背後の扉が勢いよく閉まる。慌てて碧乃が開けようとするが、扉は押そうが引こうがびくともしない。
「アノカタハ……アノカタハイキテイル。イキテ、イキテモドッテクルノダ。ソレマデコノヤシキヲマモラナケレバ。ソシテ、ツマデアルワタシガオデムカエセネバ!!」
 椅子を中心に空気が弾けた。衝撃で四人とも後ろに飛ばされて強かに背中を打つ。
「く……あんたが旦那さんを愛していたことは分った。だけどな……」
 武史は立ち上がるとしのがいるであろう方を向いて叫ぶ。
「だけど、旦那さんはもう帰ってこない! 戦後60年経った今でも! あんたもここを離れて『やるべき事』があるんじゃないのか!!」
「ヤカマシイ!」
 さらに前から風が吹き付ける。武史は両足を踏みしめながら、じわりじわりとしのに近づいていく。5・6歩前に出ると、懐の内ポケットに手を入れ赤い札を取り出す。
「魅貴! しのさんは何処だ!」
「社長の目の前! 椅子の上に立っている。そこから20、いや30度右に移動。――来る!」
 慌てて飛びのくが、爪らしきものが肩を掠めていった。うっすらと血が滲む。
「社長!」
「大丈夫だ! 次は何処に行った!?」
「社長危ない! 後ろ!!」
「んなっ!? ……かはっ……」
 武史はしのに首を絞められたまま宙に持ち上げられる。バタバタと足をバタつかせるが、その足はむなしく空を蹴る。
「社長!!」
 叫ぶ魅貴の横で、立ち上がった柊一朗が左手をしのに向かってかざす。その手首では翡翠の数珠が強い光を放っていた。その光のせいかしのは武史を離してしまう。その一瞬の隙を突いて、武史はしのの体に赤い札を貼り付けた。大きな破裂音がして、しのは後ろ向きに弾き飛ばされる。
「魅貴、しのさんはどうなった?」
 武史のそばに歩み寄った魅貴は悲しそうにしのを見つめる。
「そこに、座り込んでる……」
 いつの間にか風は止み、4人の息遣い以外の音は一切聞こえなくなった。
「しのさん……あんたは十分旦那さんに尽くしたと思う。こんなに、60年も想われて、旦那さんは幸せだったと思う」
 武史は立ち上がるとしのに歩み寄り、青い札を懐から取り出した。
「でも、人は死ぬんだよ。それはどうしようもなく、逃れられない場合だってある。それでも魂は皆冥府に行き、閻魔の裁きを受けて転生への道を歩まなくちゃいけないんだ。しのさん、いまあんたはその輪廻の輪から外れた存在になってしまってる。俺がさっき言った『やるべき事』って言うのは、きちんと裁きを受けてまたこの世に新しい命として戻ってくることなんだ。そして俺はその手助けをしに来た。分ってくれるな?」
 しのはゆっくりと目を閉じた。武史は青い札をしのにやさしく貼ってやる。しのがまばゆい光に包まれ、そして光ごと消えた。武史は目を閉じるとにっこりと微笑んで呟く。
「逝ってらっしゃい」

「ありがとうございます。僕一人ではフサエさんとの約束を果たせなかったと思います。本当にありがとう」
 柊一朗は屋敷の外で武史と握手を交わしながらそう感謝の意を表した。武史は照れながらも感謝の言葉を返す。
「いや、あの時助けてくれなかったらヤバかったし、礼を言うのはこっちの方だ。助かったよ」
「また東京に来ることがあれば、是非事務所に寄ってください。愉快な人たちがいますので……」
「あれ? 先生、『愉快な人』って私も入ってますか?」
 少しいじけたような碧乃の表情に、柊一朗は慌てた表情になる。そんな柊一朗をほったらかして、碧乃は魅貴とアドレス交換をしている。やがてお互い別れを告げると、武史たちは乗ってきたレンタカーに乗り込み山を降りる。車内では助手席で魅貴がぐったりとシートに身を預けている。と、そこに魅貴の携帯が鳴る。魅貴がメールを確認すると碧乃からのメールだった。

「件名:そういえば……

 本文:魅貴たち付き合ってる?」

「んあ?!」
 顔を真っ赤にした魅貴に武史が声を掛ける。
「ん? どうした? 誰からのメールだ?」
 魅貴は武史の顔を必死で前に向ける。
「ない! 何でもない! 何でもないから! いいから前向いて運転しろぉ!!」


■柊 真平さまのサイト 【dandelion】
今回は柊さんの作品とコラボレートしていただきました!
武史さんと魅貴ちゃんは、『便利屋』に登場する探偵社の社長&助手コンビです。
冥探偵の二人と境遇が似ていて親近感がわいてしまいます。
若さとかっこよさでは、社長のほうがどこかのヘタレ所長より数十倍上ですけどねっ!
しかしそのヘタレも、柊さんの手にかかればふだんより二割り増しどころか、五割り増しでかっこよく…!
冥探偵では見られない、これぞサイキックアクションなシーンまで見られて、もう大興奮です。
柊さん、本当にありがとうございました!!

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