PoP×冥探偵日誌 6


幸橋少女の恋愛手帳



 お気に入りのパンプスが、と幸橋泉は自分のかかとを見る。彼女の婚約者である水市晴時のために少し遠くまで買い物にきたと言うのに目的のものは見つからず、さらにはパンプスのかかとが外れてしまったのだ。
「はぁ……」
 幸橋は小さく肩を落としてため息をついた。そして帰るために駅の方向に歩き出した瞬間、かかとが片方ないせいでバランスが崩れてしまった。
「きゃっ」
 目の前に地面が見える、と思ったとき手を誰かに引かれた。そのまま勢いに任せて何かにぶつかる。どうやら、人の胸、しかも男性のようだ。幸橋は顔を上げる。
「あ、ありがとうございます……」
 そのとき、幸橋は小さな鼓動の高鳴りを感じた。


―――幸橋少女の恋愛手帳


「泉が変なんだ」
 休み時間、水市は真剣な顔をして中田にそう言った。突然言われた中田は「へ?」と間抜けな声をあげた。
「変、って幸橋が?」
 中田が言うと水市は人差し指を口の前に持ってきた。中田の声はクラスでもよく響く方で、それを恐れての行動らしい。水市は嫌に真剣な顔をしている。
「何が変だって言うんだ? 別にそんな感じしないけど」
 中田は視線を水市から幸橋に持って行く。休み時間と言う事で幸橋の席の前に望田と上里がやってきて何かを話している。その様子から何かおかしい部分を中田は見つけることが出来なかった。
「なんか、ぼんやりしてる」
「えーっと…」
 それって、割といつもじゃないの? そう言いかけた言葉を中田は飲み込んで水市の言葉を待つ。
「朝話したけどなんか上の空っぽいし、ため息の回数がやけに多い」
「た、ため息ですか。それは気付かないなあー」
「何かあったのか…?」
 中田の棒読みにも気付かない水市は顎に手を当てて悩み始めた。中田は困って広塚に視線を送る。広塚はちょうど本を読み終えたらしく、その視線に気付いた。中田はこれぞとばかりに激しく手招きをする。
「…何だ?」
 けだるそうな広塚の声を聞いて中田は少し安心していた。もう一人で悩まなくて済む。
「なんか、幸橋の様子がおかしいらしいんだよ」
「はぁ…」
「なんか知らね?」
「知るか」
 広塚はあくび混じりにそう言うと、水市が静かに広塚のほうを向いた。その視線は鋭く、普段の水市からは想像出来ないような恐ろしさを含んでいる。広塚と中田はその視線にびくりと肩を震わせた。
「本当に、何も知らないのか?」
「は、はい…申し訳ないです、何も知らなくて」
「中田は?」
「すみません、何も、知らないです」
「そうか」
 広塚と中田の口調を変えるぐらいに水市の気迫は恐ろしいものだった。そして、水市は再び幸橋の方を見た。望田と上里は会話に花を咲かせているが、幸橋はその会話を一歩引いたところで聞いている様子だった。幸橋は普段から望田たちのように大声で話すことはなく、小さく相槌を打ったりしているぐらいだった。しかし、今日はその様子が何か違う。
「確かになんか違う感じだなー…」
「いや、完全に違う」
 水市があっさりと言うのを見て、中田と広塚は顔をあわせて小さくため息をついた。と、そのとき
「それって恋じゃね?!」
 上里の大げさな叫び声が教室に響く。休み時間に騒がしい教室も少し静まった。しかしその様子に気付かない上里と望田は会話を続ける。
「そんな美形に抱かれたって、絶対惚れるって!」
「そうそう! え、もしかして泉の好みだったりするの?」
「そ、そういうのではなくって!!」
 珍しく幸橋が声をあげる。その顔は真っ赤に染まっていて、慌てている様子がよくわかった。
「いいなー、そういう出会い…ロマンチックだよなぁ」
「そうそう。そこから素敵な恋に発展、とか……」
「だから、ち、違いますっ!」
 上里と望田の言葉に幸橋は耳まで真っ赤にして必死に否定した。中田と広塚はハッとして水市の顔を見る。
「こ……い………?」
 血の気が引いたような真っ白な顔をして水市は呆然としている。これはまずい、と中田と広塚は水市の肩を叩いたり背中をさすったりして意識を取り戻そうとした。
「晴時!! しっかりしろ!!」
「おい、目がやばいから!! 水市、起きろ!!」
「こ、…こ、……い………い?」
 そんな一生懸命な二人を尻目に望田と上里の妄想トークは続く。
「抱きしめられた胸の鼓動、忘れられなーい、とかなっちゃって」
「あの時の手の温かさを忘れられねー、とかなって」
「もう一度、会えませんか? なんて言っちゃって」
「そんでもって深い愛に発展しちゃってー!」
「私が好きなのは晴時さまだけですわ!!!」
 その叫び声に望田と上里、広塚と中田、そしてクラス全体が驚きの表情をした。叫んだ張本人、幸橋は肩で荒く息をしていて顔は先ほどまで以上に赤くなっていた。普段の幸橋にある『お嬢様』のイメージを吹き飛ばすその姿に全員が呆然としていた。が、しばらくして歓声や拍手、口笛の音が教室中に溢れた。
「幸橋が告ったー!! 再告白ー!!!」
「さっすが、大胆じゃねーか!!」
「おい、水市お前の返事はどうなんだよ!」
 歓声を上げた一人、小野が水市に返事を求める。その一言でクラスの全体の視線は幸橋から水市(とそのそばにいた中田と広塚)に移る。水市は幸橋の叫び声に目覚めたらしく、小さく瞬きをしていた。そしてしばらくの沈黙の後
「俺も同じに決まってるだろ」
 と言った。また歓声がクラス中に響いた。このクラス、なんかいつもお祭り気分だな……と広塚は小さくため息を吐いた。

「でも泉の様子が変だったのは確かだねえ」
 放課後、誰もいない教室に幸橋と話をしていた望田と上里を呼んで、三人は幸橋の様子を聞いた。
「ぼんやりしてる、っていうか上の空っていうか、なあ」
「うん。なんかいつも以上にほわほわしてたし」
「いや、ほわほわって何だよ」
 望田の言葉に広塚がツッコミを入れると望田はむすっとして「乙女の気持ちがわからぬ男には到底理解できん感情じゃ」と言ってきた。広塚はそのとき、一生乙女の気持ちを理解できないだろうと思った。
「それで休み時間に話してた、抱きつかれただの手のなんとかだの、何の話だ?」
「え…」
 中田の問いに、望田と上里は顔をあわせて口を閉ざした。解かりやすいぐらいに、怪しい。
「何かあるのか?」
 水市がやっと口を開く。その声は恐ろしいぐらいに刺々しく、望田たちを貫こうとしているようにも思えた。広塚と中田は慌てて水市を教室の外に引っ張り出した。
「晴時、お前はとりあえず喋るな!」
「少し冷静になってから、な!」
 そう言って扉を強引に閉める。水市は深く息を吐いた。
「えーっと、それで? 何かあったわけ?」
 中田が上里に声をかけると、しばらく俯いて「水市には言うなよ」と言って話を始めた。
「泉な、今水市にプレゼント作ろうとしてるんだよ」
「プレゼント?」
「そう。だから、水市に内緒で瀬々良木まで買い物に行ってきたらしくって」
「それで、転んだところを男の人に助けてもらったんだって」
 上里の言葉を望田が続けて話は終わった。どうやら望田たちが盛り上がったのはその助けてくれた男のことのようだ。幸橋曰く、優しそうで素敵な方とのことだったため女子の妄想を膨らませてしまったらしい。
「泉、ああ言ってたけどやっぱりその人の事、結構気にしてるんじゃないかな?」
 確かに……割と鈍感な方の広塚だったが、その望田の言葉には同意できた。中田も強く頷いて「だろうなあ」と相槌を打つ。あの顔を赤くして必死に否定する部分、気にしている様子は理解できる。
「でも晴時、相当心配してたからな……どうにかしてやらないと」
「事情説明するなら、プレゼントのことは伏せてもらえる? じゃないと泉、凹むだろうし」
 おねがい、と手を合わせる望田と上里を見て二人は困ったようなため息を吐いた。これを言って、水市が無事であればいいのだけれど……そんな不安は見事に適中した。
「………男に、助け、ら、れた」
 望田たちが帰り、二人が事情を説明した後まるで壊れたスピーカーのように、水市はそう言った。予想通りの反応だったため、中田と広塚は目を閉じて水市から顔をそらした。
「そうか……そうなんだ、何だよ、泉…俺に言えば、買い物だってついていくのに……」
 とか何とかブツブツ呟く水市に背を向けて二人はひそひそと会話をする。
「なあ、水市ってあんなキャラだったか?」
「いやー、多分もう幸橋にゾッコンなんだろうな…ありゃ過保護っていうのか?」
「全く理解出来ない。さっぱりわからない」
「ま、彼女とまだまだ始めの一歩を歩んでいる啓ちゃんには理解できないザマスね」
「誰が啓ちゃんだ……!」
「そうだ」
 水市の声にくだらない会話を交わしていた二人は肩を震わせる。またあの怖い視線が出てきちゃうのー…と泣きそうになりながら振り向くと水市は何かひらめいたような顔をしていた。
「泉、今週末用事があって瀬々良木まで行くとか言ってたな」
「そう、なんだ」
「またその男に会うのかもしれないな」
「ああ、か、かもな」
 広塚がぎこちなく返事をすると水市の目からフッと光が消えた。まさか、と中田が思った瞬間水市の体がふらりと傾いた。
「わー!!!! 晴時ー?!」
 倒れる、というところで中田が水市を支えた。そして水市は乾ききった砂漠のような笑い声を上げている。たった三人しかいない教室でそんな笑い声を上げられると教室は不気味になってしまう。
「あー!! そうだ、瀬々良木だろ?! だったらしゅーちゃんにでも頼めばいいじゃん!!」
「そ、そっか! だって高橋さん探偵だもんな!! そういう尾行とかも慣れてるんじゃないかな?!」
 半泣きになりながら中田と広塚が叫ぶと水市はハッと起き上がった。
「そうだ、こういうときこそしゅーちゃんの出番だ」

「……え、ええっと…?」
 柊一朗は少しだけ電話の向こう側に苛立ちを覚えていた。突然昔からの友人が電話したかと思えば「密会の尾行をして欲しい」との事だったからだ。
「あのね、晴ちゃん。言っていいかな」
『何?!』
「一応僕もこれを仕事としているんだよね。だからね、あんまり遊びに使って欲しくはないんだよ…」
『遊びじゃない!! 俺は本気なんだ!!』
 水市の気迫のある声に、柊一朗は驚いた。普段は静かなほうなのに、今回はよっぽどのことらしい。しかしそれとこれは話が別だ。
「でもね、君の友達の後を尾行するっていうのは」
『友達じゃなくて婚約者!!!』
 水市がそう叫んだところで、電話の向こうが騒がしくなった。
『もしもし、高橋さん』
「広塚君?」
『すみません…もう水市なんか完全に壊れかけてて、つい高橋さんの名前出したんです……』
 水市が壊れかけているのには電話の出だしの『しゅーちゃん助けて!!』のあたりから気付いていたが、広塚たちが柊一朗の名前を出すところまで、というのは大変な出来事のようだ。
「そう、なんだ…」
『本当にすみません! 水市は俺たちが説得しますから』
『お前らがそうしろっていったじゃねーかー!!』
『落ち着け晴時ー!!!』
 電話の奥から水市の叫び声とそれを押さえているであろう中田の悲痛な声が響く。と、そのとき柊一朗の手から電話が消えた。
「大丈夫、任せて!」
「あ、碧乃君?!」
「困っていることがあるなら、この芹川碧乃さんにどーんと任せちゃいなさい! あとおまけに先生も」
 胸をどん、と叩いて碧乃が言う。そして視線を柊一朗に向けた。
「困っている人がいたら例え西だろうが東だろうが行って助ける! それが探偵の基本構造ですよ」
「いや、でもね…」
「どうせ今週末も予定空いてますし、いざとなったら私一人で行きますよ」
 だから任せてください、と碧乃は柊一朗にウインクを向けた。こうなったら何もいえない柊一朗は困ったように目を閉じて「今回だけだよ……」と蚊の鳴くような小さな声で言った。そんな間にも碧乃は広塚と会話を交わして電話を切った。
「いいじゃないですか、先生。この間の望田さんの時はノリノリだったし」
「いや、それとこれは違うでしょ」
「違いませんよ! あ、それともやっぱり女の子に頼られる方がよかったんですかあ?」
 碧乃が柊一朗を白い目で見る。「あのね、碧乃君」と言いかけた柊一朗を、手を出すことで碧乃は制した。
「冗談ですよ。じゃ、これは私からの依頼って事にしてください。広塚君たちを助けてあげる、って」
「……う」
「それに、先生もあの水市君の様子、心配じゃないんですか?」
 そう言われると、確かに心配である。水市があんなに荒れ狂っている姿(というか声)を柊一朗は聞いたことがなかった。それで心配にならないほうがおかしい。
「そうだね…何があったかは気になるし」
「そう来なくっちゃ」
「でも、この依頼料金はボーナスから引いておくよ」
 柊一朗がそう言うと、碧乃は「ボーナスなんて貰ったことないですけどね」と反撃した。

 家に帰った幸橋は週末の予定を考えて少し微笑んだ。手帳を開き、今週と来週の予定を見る。本当ならこの間の週末に終わるはずの買い物がこんなに伸びてしまった、と少し憂鬱な気分になったけれど悪いことばかりではなかったとまた口元を小さく上げた。
「楽しみですわ……」
 手帳の週末の部分に『瀬々良木』と記して閉じる。幸橋はあの時自分を掴んだ手を思い出した。また彼と会えることは、婚約者がいる身として不謹慎だが楽しみにしているのだ。
「早くならないかな……」
 幸橋がそう呟いたとき、すぐそばに置いていた携帯が鳴った。ハッとして幸橋は携帯をとる。
「もしもし…あ、はいっ」
 幸橋の表情が輝く。
「はい、はい…今週の、はい、土曜日。大丈夫です、はい……ええ、楽しみにしてます」
 そう言って、電話を切ると幸橋は手帳を閉じた。その顔は、幸せそうな輝きを帯びていた。

「…所長」
 碧乃が帰ってから静まった書斎で柊一朗が本を読んでいると、目の前に石蕗が立っていた。
「ん、どうしたの石蕗」
「…実は、休暇を頂きたいのですが」
 休暇? と柊一朗は視線を本から石蕗に向ける。いつも通りの無表情で石蕗は柊一朗を見つめている。
「…今週の、土曜日に」
「土曜日…うん、別にいいけど。どうしたの?」
「……少し、人と会う約束をしましたので」
「人と会うなんて、なんだか珍しいね」
「………まあ」
 それだけ言って、石路は礼をして台所へ向かった。時間は七時を過ぎようとしている。夕食の時間か、と柊一朗は再び本を読み始めた。

「泉」
 電話の翌日、登校中の幸橋は名前を呼ばれてハッと顔を上げる。そこに、心配そうな水市の顔があった。
「そうしたんだ、泉」
「え、……何が、ですか?」
 ぎこちないその言葉は怪しさだけを水市に感じさせた。幸橋は微笑んでいるが、それもまたぎこちない。
「お前、俺に何か隠していないか?」
 その言葉にびくりと肩を震わせた幸橋。やっぱり、と水市は目を閉じて息を吐いて幸橋の顔を見た。
「泉、何で隠したりするんだよ。そんな事、しなくても…」
「ご、ごめんなさい…まだ、言えないんです……」
「まだ、って…」
「もう少しだけ、時間を下さい。あと、少しだけ」
 幸橋が困ったような笑顔を浮べる。水市は少し悲しくなりながらも、話題を変えた。
「なあ、泉。今週の土曜、一緒に出かけないか?」
「……ごめんなさい、本当に時間が欲しいのです」
 そう言って幸橋はぱたぱたと走り出す。その背中を追いかけることも出来ず、水市は立ちすくんで見つめていた。

「それでこんななってるわけか?」
 教室で虚ろな目で黒板を見つめている水市の姿を見て、広塚は呆れたような声をあげた。同じように呆れた顔をしている中田が頷く。
「魂抜けてまーすって顔だな、こりゃ」
「おーい、水市ー。起きてるー?」
 広塚が水市の前で手を振るが、全く反応無し。中田が水市の肩を揺らすが、それにも反応無し。
「死んでる?」
「死んでる。魂抜けきってる。もう戻って来れない感じだな」
 こんな顔をしている水市の姿なんて初めてだ、広塚と中田は困ったように水市を見る。水市はただ遠い目をしてどこかを見つめている。
「あ、そういえば今週末だろ? ほら、原因解明まで魂を繋ぎとめろ、な!」
 中田が強く水市の背中を叩いて励ましの言葉をかけたが、その声が水市本人に届いているかは定かではない。
「魂がそんな簡単に抜けるはずないだろう」
 一方、その後ろで呆れた顔をしたもう一人、アーディスがそんなごもっともな意見を言った。
「いや、そうだけどな。でもあの水市の姿はまずいだろ」
「…どういうことだ?」
「なんていうか、ほら。お前だって普段の水市知ってるだろ? それから連想できるか、あんな顔」
 そう言われて、アーディスはじっと水市の顔を見る。眉間に小さな皺がより、その皺が少しずつ深くなる。どうやら真剣に考えているらしい。その横顔を広塚は見つめて答えを待つ。
「理解出来ない」
 がくり、広塚はアーディスの答えを聞いて肩を落とした。予想していた通りの答えだったが、わざわざ期待をさせるような考え方をしてそれはないだろう。そんなツッコミを心で小さくしながら、広塚は水市を見る。
「そんなにまずいことか」
「まあ、まずいだろ。あの姿」
 広塚の言葉を受け、アーディスはもう一度考えた。が、やはり理解出来ないもので、考えることを諦めた。
「なんか水市死亡フラグ立ちまくりねー」
 と、広塚の隣にやってきたのは望田であった。死亡フラグ……? すこし聞きなれない言葉をさらさらという望田を広塚は少し引いた目で見た。
「あれ、生き返りそう?」
「いや…多分無理じゃね?」
「でも泉の方はわりとご機嫌だったよ。なんか、手帳の土曜日の所を見て幸せそうだったし」
「土曜日、か……」
 その日、全てがわかるのだろう。そんな安心をしていた広塚は重要なことを思い出した。
「中田ー……すごく重要なことを思い出したわ」
「重要?」
「俺、土曜日試合だった」
 それを聞いた中田の顔が一気に真っ青になった瞬間、チャイムが鳴った。

 いくら不安や心配を抱えていても、いずれ朝は来る。そんなこんなで気が付けば土曜日になっていた。
「ええー…っと……」
「わー…これは、また……」
 瀬々良木駅前で待ち合わせをしていた柊一朗と碧乃はやってきた中学生二人組の姿を見て言葉を失っていた。
「ども! 今日はお世話になりまーす!」
「……おは、よう」
 明るく挨拶をした中田の髪は派手に立った明るい茶髪と所々に見えるピンクや水色といったメッシュ。服は全体的にだぼついており、耳にはピアスまでもついている。
 一方中田とは打って変わって低いテンションの水市は黒い髪の中に赤のメッシュが入っている。服装は普段の水市から連想できない、パンクファッション。シルバーアクセサリーが黒い服に輝き、中田同様に鎖がついたピアスもつけている。が、その目元には不安で眠れなかったのか、隈が出来ている。
「二人とも、どうしたの? その格好」
「尾行といったらやっぱり変装でしょ! あ、俺あと眼鏡と帽子も持ってきましたよ」
 碧乃の言葉に鞄を漁りながら答える中田。そして、鞄から黒い帽子と黒い大きな縁の眼鏡を取り出した。
「じゃーん。これさえあれば完璧っすね!」
「でも、君たち中学生でしょ……その頭は…」
「ああ、これカツラっていうかウィッグです。知り合いから借りて。あ、耳はピアスじゃなくてマグピなんで穴開いてませんよ」
 中田が柊一朗の質問に答えるが、少しわからない単語がぽんぽんと飛んできた。一方碧乃は「なるほどー」と納得している様子だ。
「じゃ、私もこの帽子かぶって…はい、先生も眼鏡かけて」
「え、えーっと……」
 碧乃に言われるまま柊一朗は黒縁の眼鏡をかける。度は入っていない、伊達眼鏡のようだ。
「さて、幸橋はどこかなー……っと」
 土曜日と言う事もあって、駅の周りには人がそこそこ多くいる。その中で、幸橋一人を探すのは少し面倒なことである。と、思っていた矢先。
「いた!」
 中田が小さく叫び、一同は駅前にある時計柱の裏に隠れた。
「あの子が、幸橋さん?」
「はい」
 柊一朗は少女の横顔を見る。白いシャツと淡い黄色のカーディガン、ピンクのスカートと言う清楚な少女を連想させるような格好をしている幸橋は、バッグと別に紙袋を持っていた。誰かを探している様子で、あたりを見渡している。
「どうやら誰かと待ち合わせのようだね……」
「多分、この間助けてもらった男と待ち合わせ、だと思います」
「なんだか複雑ねえ…」
 碧乃が呟いている間に、幸橋ははっと顔を明るくさせた。そして、ある方向に走り出す。幸橋の走る方向にあわせて、一同も同じ方向に顔を動かす。そこには長身の男が立っていた。その姿を、柊一朗と碧乃は知っている。
「え、石蕗さん……?!」
 幸橋が足を止めたのは、紛れもなく石蕗の前だった。幸橋は楽しげに石蕗に声をかけて、その言葉に石路は相変わらずの無表情で返事をしている。
「もしかして、お知り合いだったりするの、しゅーちゃんたちの」
 状況が全くわかっていない中田は柊一朗に尋ねる。その問いに答えたのは碧乃だった。
「先生の大切な、家政夫さんよ」

「本当にありがとうございます。わざわざ一緒に回って頂いて…」
「…いえ、出来ることがあればお手伝いします」
 石蕗は目の前にいる少女にそう返事を返す。その言葉に幸橋は楽しそうに微笑んでいる。
「そう言っていただけて、とても嬉しいです。瀬々良木には慣れてなくて、困っていましたから」
「…初めての場所なら誰でも困ってしまうものです」
 そう言った石蕗は幸橋と歩調をあわせる。端から見ていると兄と妹のように見えるこの二人だが、約一名そのほのぼのとした様子を絶望した表情で見つめている人物がいた。
「せ、せい…じー……」
「せ、いちゃ…ん……?」
 二人を後ろから追跡していた水市の表情はパンクファッションに似合わない、暗い顔をしている。風が吹いたら飛ばされそうなオーラも漂わせている。
「水市君、しっかりして! ほら、元気出して!」
「あ、あっはは…お、俺は、げ、元気でえ……す…」
 そう言っているが、水市は死にそうな声を上げた。碧乃も引きつった表情で水市を見る。
「水市君、事務所に来て少し休む? じゃないと…」
「いえ、行きます……俺は、真実を、見つけるためにここに来たんですから」
 やけに話が発展してないか? と、柊一朗と中田は苦笑いを浮べた。そんなサスペンスドラマじゃないんだから、と碧乃が明るく声を出すが水市は相変わらずの暗いオーラを発している。通行人の視線が暗いオーラを出すパンクファッションの少年にちらちらと向けられる。
「しかし、石蕗が人と会うっていうのは聞いていたけど……まさか中学生と会うなんてね」
「でも石蕗さんなら人助けしそうかも。らしいといえば、らしいですね」
「確かに」
 柊一朗は微笑みながら頷いた。きっと困った人がいたらすぐに手を差し伸べる、石蕗との長い付き合いの中で柊一朗は実感していた。現在の自分も彼にとっては困った人なのだろう…なんて考えて少しだけ肩を落とした。
「しっかし、その石蕗さん…すげー美形ですね」
「そうよねー」
 以前、碧乃の友人も石蕗に惚れただの何だの言っていた時期があった。やはり石蕗の見た目は平均以上のものがあるのだろう。
「幸橋が惚れるのもしかたな……」
 中田は言いかけてびくりと肩を震わせた。突然肩を震わせた中田を驚いた顔で碧乃と柊一朗は見たが、すぐにその理由がわかった。
「……こ、い………」
「晴時! 今のは違う、違うんだ!!」
「いず、み………あ、はは…は…」
「しっかりしろ! 気を確かに持つんだ晴時!!」
 前にいる石蕗と幸橋に聞こえないように中田は小さく水市に向かって言った。水市の表情は先ほど以上に暗いものになっている。そのオーラは自分たちを包み込みそうで、碧乃と柊一朗は少し怖くなった。幽霊に追いかけられるほうが可愛く思えるほどの暗さである。
「しゅ、しゅーちゃんど、どうしよう!」
「落ち着いて。とりあえず、二人の後を追おう。それで全部わかるはずだよ」
「そう、そうよ! だから水市君も気を確かに持って!」
 碧乃が水市の手を両手で包んで言う。水市は目に涙を溜めた状態で頷いた。
 そんな後ろの様子も知らないであろう幸橋と石蕗は楽しそうに話をしている。楽しそう、と言っても石蕗はいつも通りの無表情であったが。
「石蕗さんはすごいのですね。何でも出来て…」
「…いえ、何でもと言うわけではありません…」
「そんな! だって、私に出来ないことを教えてくださったじゃないですか。すごいことですよ」
「…ありがとうございます」
 そして二人が向かった先はとあるショッピングモールだった。なるほど、デートには打ってつけ…なんて碧乃は考えて後ろを見る。まるでキノコが生えてきそうなオーラを漂わすパンクファッション少年はふらふらと揺れていた。そのうち風に飛ばされてしまいそうだ、……碧乃はその考えを振り払うように首を振った。
「二人で買い物、ですかね?」
「だろうね。石蕗、時々ここで買い物してるって前言ってたから。でも、どうして幸橋さんはわざわざここに来たのかな…」
「だってこっち側こんな大きな店ないですし」
 柊一朗の疑問に中田が答える。彼らが住む町には目の前にあるような大きなショッピングモールは無いのである。時々校区外であるはずの長月中学校の生徒がいると言う話を柊一朗は耳にしたことがある。
「さて、何を買いに行くか見に行きましょうか……」
 碧乃の言葉に、一同は頷いた。

「わあ……こんなにいっぱい!」
 幸橋は感激の声を上げる。幸橋と石蕗が入った店は手芸道具専門店だった。
「手芸……って、石蕗さんお裁縫も出来るんですか?」
 その後を追った碧乃は驚きの表情で柊一朗を見る。
「どうだろうね。もしかしたら、幸橋さんが頼んだということもあるかもしれない」
「うお、しゅーちゃんが探偵っぽい」
 中田の言葉を受けて、苦笑いを浮べながら柊一朗は言葉を続ける。
「幸橋さんがこっち側にあまり来ない様子からすると、石蕗に助けられた時に手芸店のことを聞いたかも知れない。というか、それが一番無難かな」
「すげー……本当にしゅーちゃんって探偵なんだ………」
「私も久しぶりにこんな姿見た……」
「あのね……中田君も中田君だけど碧乃君は僕の助手なんでしょ」
「だって、最近はヘタレキャラが定着してるじゃないですか」
 そんなに僕ってヘタレかな…。柊一朗は疑問を抱きながら店内の品を見る二人を見つめる。さすがは探偵、その姿は慣れている様子が漂っていた。
「しかし幸橋が手芸……、合ってるって言えば合ってるけど何で突然?」
 中田は水市の方を見ながら言ったが、水市はぼんやりと店内を見ている。
「ダメだ、完全に意識飛んでる」
「恋は人を狂わすって聞いたけど、まさにこれね……」
 碧乃の呟きも耳に届かない水市は文字通り『魂が抜けきった』顔をしていた。きっとこの姿を見て幸橋や、学校の女子生徒たちは困惑するだろう。「あの水市の魂が抜けた!」と。
「これ、どうでしょうか?」
 幸橋は毛糸球を石蕗に見せる。濃い青色と水色が混ざった特殊な色をしている。
「…素敵な色だと思います」
「あと…この二色は合うと思いますか?」
「…それよりも、こっちの色が合いますよ」
「本当ですね…!」
 楽しそうに毛糸を選ぶ男女二人。お互い年齢が近ければカップルに見えるのだろうけれど、二人はどう見ても兄弟のようにしか見えない。楽しそうにはしゃぐ妹と、それにしっかりと返事を返す兄。
「あれ…カップルじゃん」
 しかし水市の目には完全に二人が付き合っているようにしか見えないのだ。久しぶりに呟いた声を聞いて、碧乃と中田が水市の顔を見る。その声は擦れていて、中学生らしい若々しさが全くなかった。
「そ、そうじゃないよ! ほら、どう見ても兄弟だよ…ね?」
「そうそうそう! 幸橋と釣り合うのは晴時しかいねーって!」
「だって……石蕗さんの方がかっこいいし…」
「いやいやいやー、石蕗さんは友達としてはいいけど、恋人としては違うと思うよー!」
 碧乃は店内にいる石蕗に心の中で全力謝罪しながら水市を励ます。中田も激しく頷いて水市の肩を叩いた。柊一朗がそのやり取りを聞いて「ははは…」と乾いた笑い声を上げた。そのとき、店内で動きが見られた。
「じゃあ、私これ買ってきます」
「…わかりました」
 幸橋の言葉に石蕗は頷きながら店を出る。柊一朗たちは慌てて手芸店の向かい側にあるアクセサリーショップに入った。なるべく不自然に見られないようにそれぞれの格好に似合うアクセサリーを見ようとしていた。……水市を除いて。
「せ、晴時ー!!! そっちじゃねえだろお前はー!!!」
 水市が直行したのは女性、それも水市たちと同じくらいの中高生を狙ったアクセサリーが展示されているコーナーだった。しかも、そこにあるアクセサリーの一つを手にとってぼんやりと見ている。パンクファッションのアクセサリーは真反対の所にある。
「せ、晴ちゃん、ほらー、君が好きそうなのはあっちにあるよー…」
 柊一朗が慌てて水市の肩を引き寄せてパンクアクセサリーコーナーに連れて行く。そうこうしている間にもレジを終えた幸橋は石蕗と共にショッピングモールの外に出ようとしていた。お互いの様子を確認して、柊一朗たちは水市を引きずるように後を追いかけた。

 二人がたどり着いた場所は、駅からすぐそこにある公園だった。子どもや親子連れ、そしてカップルの姿が良く見られた。果たして石路と幸橋はそのどれに当てはまるのだろうか。そんな事を考えていた碧乃は二人を見失わないように視界の端に入れながら、柊一朗と歩いていた。さすがにタイプが全く違う四人が歩くのも怪しい、という中田の的確な提案で、柊一朗と碧乃、中田と水市と二組に分かれて石蕗と幸橋を追跡することにしたのだ。
「なんだか、いい雰囲気ですね」
「え?!」
 突然の碧乃の言葉に、つい声を上げてしまった柊一朗は眼鏡越しに碧乃を見る。碧乃は何故柊一朗がそんな慌てたような顔をしているか理解できない様子で瞬きをした。
「え、って何ですか? 幸橋さんと石蕗さん、いい雰囲気じゃないですか」
「あ、あー…そ、そうだねえ……」
「…先生、どうしたんですか?」
 疑問だらけの碧乃の声に柊一朗は「なんでもないよー………」と言った。その声色は、悲しげな響きが含まれている。
「あれ、何してるんだろうな?」
 中田が不自然にならないように、と心掛けながら幸橋の姿を見る。すこし距離が離れているため何をしているのかよく見えない。だけれど、先ほど寄った店から何か編み物をしているのだろう。
「晴時、何か心あたりあるか?」
「…いや、ない……俺、裁縫とかなんにもできないから」
 石蕗さんと違って、と小さく呟く水市の声はいつ泣き出してもおかしくないくらい震えている。それは困るので、「大丈夫、晴時は何でも出来るって!!」と中田は励ます。この一週間でどれだけ励ましをしたのだろう。そろそろネタも尽きてきた。
「励まし大百科とかでねぇかな……」
 絶対それ買うわ、うん。中田は隣で失恋(?)した友人を見て、そう思った。そして、ちらりといい雰囲気を作り上げている二人に視線を向ける。
 二人は仲良くベンチに座って、話をしている。幸橋の方はぎこちない手付きで編み物をしていた。
「…もうこんなに編まれたのですか?」
「え、ええ……下手、ですよね」
 幸橋の言葉に、石蕗は首を小さく振る。
「…一生懸命編んでいる方の編み物が、下手な訳ありません」
 端から聞けば口説き文句。もちろん、そんな言葉を聞きなれているはずのない幸橋は顔を赤く染める。「ありがとう、ございます……」
「…ここを、こうすればいいと思います」
 そう言って、石蕗は幸橋の手に自分の手を重ねる。はっと、幸橋は視線を編み物から自分の手、そして隣に座る男性にむける。すぐ目の前に、その整った横顔があった。女子中学生にとって、異性の…それも年上の男性にこんなにも接近されると言う事は彼氏や婚約者がいる身としても胸を高鳴らせてしまうものなのである。
「…幸橋さん?」
「えっ…」
「…大丈夫ですか?」
 心配そうに声をかける石蕗を見て、幸橋は小さく首を振り「大丈夫です」と言った。それから、石蕗に教えてもらった通りに手を動かす。
「ありゃまずいだろ」
 ちょうど柊一朗たちと合流した中田はその微笑ましい様子をよく見える場所から見ていた。その光景に事務所で時々話をする碧乃、長い付き合いのある柊一朗は驚愕の表情を浮べていた。そして、もう一人。
「俺……帰ります」
 異様に低い声で水市が言った。水市の頭にキノコが生えている、ように見えたのはその場にいる柊一朗たち以外の人々も一緒であった。それほど水市は死にそうになっているのである。水市はぐるりと幸橋たちの座っているベンチに背を向けた。
「ま、まあ待って晴ちゃん! まだ何が起きた訳でもない!」
 むしろ石蕗が何かを起こすはずがない。それは知っている柊一朗であったが、今の水市を止める言葉はそれしかなかった。しかし、そんな声も届かない様子の水市はふらふらと歩き始めていた。一同は水市を止めるために後ろを向く。
「晴時ー!! し、しっかりしろ!! まだ幸橋たち、あそこにいるんだぞ?!」
「そ、そうよ! 真実を知るチャンスがあるじゃない!!」
「…何の真実ですか?」
「だから、石蕗と幸橋さんがどうして一緒にいるか……って」
 突然の第三者の声に、水市も、中田も碧乃も柊一朗も振り向いた。そこにはいつも通りの無表情を浮べた石蕗と、後ろからすこし顔を覗かせている幸橋がいた。

「本当は、先週完成の予定だったんですけど……」
 騒がしいファミレスの中で、幸橋は小さく言葉を紡いだ。座る彼女の膝には紙袋と、その中から顔を覗かせるくまの編みぐるみがあった。
「…先日転んだ幸橋さんを助けた時に編み物の話を聞きまして、手伝う事になりました」
「すみません、私が石蕗さんに無理を言って頼んでしまって…」
「…いえ、協力できることがあれば出来る限りのことをするだけです」
 なんだか不思議な光景だ、と柊一朗は思った。石蕗がまさか、友人の中学生の少女と一緒にショッピングモールに行ったり編み物をしたりするなんて……もちろん、それは碧乃も同様であった。
「それはいいとして。幸橋、お前もどうして晴時に言わなかったんだよ?」
 中田が困ったような顔をして幸橋に尋ねる。幸橋は肩を小さく震わせて俯いた。
「…幸橋さんは、水市さんのために作っていたんです」
「お……れ?」
 石蕗に名を呼ばれて水市は石蕗の顔を見る。そして、石蕗は隣に座る幸橋の顔を少し覗く。
「…幸橋さん」
「お、お願いします……」
「…本当は、マフラーの予定でした」
 編みぐるみをテーブルの上に置いて、石蕗は幸橋の代弁をした。事情を知っている二人以外は頭の上に疑問符をふわふわと浮べている。
「…途中で失敗して、どうにか軌道修正をするために編みぐるみにすることにしたんです」
「なるほど…それを石蕗が教えたと」
 柊一朗が言うと石蕗と幸橋は頷いた。ベンチで編み物をしている幸橋の様子から見て、彼女が初心者であることは把握できる。それが何故、編みぐるみという上級者向けのものを編んでいたのかと柊一朗は疑問に思っていたが石蕗が手伝っていたのなら納得できた。
「それにしても、石蕗さん。どうして私や先生に教えてくれなかったんですか?」
 碧乃が聞くと、石蕗は答えた。
「…だって、聞かれませんでしたから」


「……なあ中田」
「んー…なんだよ、広塚」
「青い春、ってあいつらのことか?」
「んー……そうじゃねえの?」
 月曜日、朝の教室はお惚気オーラが漂っていた。主な原因はもちろん、水市晴時と幸橋泉の幸せカップルのおかげである。ほとんどのクラスメイトは先日幸橋がした告白の延長と思っているのだが、実際はその間に壮大なスケールの物語があったのだ。結局あの土曜日、水市と幸橋はプレゼントを渡してのスーパーお惚気タイムがスタートしたらしい。さすがのお惚気っぷりに放置された一同は呆然としたらしい。
 間接的にしか聞いていない広塚ですら疲れたのだから、リアルタイムで見ていた中田は一体どれだけ体力を消耗したのだろう。広塚は同情の目で中田を見た。
「俺も春してえな……」
 そう言って中田は携帯を広げて呟く。きっと彼女の未由子あたりに連絡をするのだろう、広塚は思った。
「春、ねえ…」
 微笑んで話す水市と幸橋を見ていると、確かに春を感じた。まあ、あそこまでは春にはならねえだろう。広塚は呆れと、クラス中に漂うお惚気を吐き出すようにため息を吐く。

END


■桃月ユイさまのサイト 【Seven Color ☆ Scenery】
うおおおおお!!! いずみんかわいいいい!!!!
……・ぜえはあ。
思わず叫んでしまうほどきゅんきゅん乙女な泉ちゃんと、無自覚紳士な石蕗さんのお話でした。
でも真の主役は水市くんですね!(笑)
本編ではお目にかかれないような姿をさらしてくれて、始終笑いが絶えませんでした。
あいかわらずキャラの把握っぷりがすばらしく、小ネタも冴え渡っております。
まさかの石蕗さん「…だって、聞かれませんでしたから」発言には爆笑してしまいましたw
桃月さん、ありがとうございました! そして婚約者ふたりはさっさと結婚してしまえ!!

ちなみにこのお話を元に藍川が描かせていただいたイラストはこちら

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