*告白


 そのとき世界が変わった。
 すべてが見違えるように美しく、色鮮やかに輝き、目に映るものすべてが新鮮だ。歌を聴けば旋律が螺旋を描き、本を開けば文字が愉快に躍りだす。一緒にどう? と誘われているかのようだ。こちらまでつられそうになってしまう。
 そして、すべてがそれまでと違った形を持って目の前に現れだした。
 頬をなでる微量な風は、天使のささやき。楽しげな笑い声が耳元をくすぐり、通り過ぎていく。光は女神の両手だ。こんなにも優しく、温かく包み込んでくれる。
 感覚が研ぎ澄まされてきたのかもしれない。それは、心の受け皿が広く大きくなったと言い換えることができるだろう。
 水も、空気も、花も、木も。何もかもが語りかけてくる。ここにいるよ。そしてきみもここにいるんだよ、と。ようやくそれが聞こえるようになった。
 今ほど自分という存在を確かに感じたことはない。
 世界との繋がりがはっきりと見える。人と人との繋がりもだ。ミシンで縫い合わせたように、無数の糸で互いに結びつけられている。それは長かったり、短かったり、太かったり、細かったりするけれど、どんなに脆くとも断ち切れずに繋がり合っている。そしてまた、繋がり合っていたいと感じさせる。
 願わくは、きみと永遠に。



「――ごめん。そのとき神に祈ると海が二つに割れ、ってとこまでしか聞いてなかった。三文字に要約して」
「好きだ」
「……最初からそう言ってくれればいいのよ。ばか」

FIN.

 


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