*煌き


 見上げてください。空には満天の星。その中でもとりわけ美しいあの煌きの集まりを、なんというか知っていますか?
 ――そう、天の川です。
 じゃあ今日はそのなりたちをお話しましょう。

 みなさん、織姫と牽牛の話は先週お話しましたね。
 働き者の二人が結婚したとたん、怠け者になってしまったという話です。愛は麻薬。ときに人を堕落させるものである。そういった教訓でしたね。おかげで天帝の怒りを買ってしまい、二人は広くて深い川に隔たれることになってしまったのです。
 では、どうして七夕の日には、ああも天の川が美しく夜空に輝くのでしょう。
 ――夏は天の川の中心に、いて座の明るい星雲があるから?
 先生そういう難しい話は知りません。
 正解はこうです。

 七夕当日、牽牛は心を弾ませて川のほとりへと向かいました。するとどこからともなくカササギたちが舞い降りてきて、牽牛をその背に乗せて飛び立ちました。
 向かうはいとしの織姫のもと。
 年に一度だけの逢瀬を許された二人です。離れているあいだは、互いに想いを募らせていたことでしょう。再会の際には、どれほど燃え上がるか想像にかたくありません。
 織姫の住まう御殿に到着した牽牛は、駆け足で彼女の部屋へと向かいました。途中、女中たちに声をかけられましたが足を止める暇などありません。一刻も早く織姫をこの腕で抱きしめたい。彼の頭にあるのはそれだけです。
 さあ、いよいよ織姫の部屋までやってきました。この扉の向こうには、一年間待ちわびたスイートハニーの姿が!
 牽牛は勢いよく扉を開け放ちました。そして固まりました。中にいた織姫も固まっていました。彼女の隣にいた見知らぬ男性も固まっていました。
 そこには、いるはずのないもう一人の人物が存在したのです。
 金色の髪に青い瞳。一目見て異国の者だとわかりました。陶器のように白い肌をしていますが、その体にはしっかりと筋肉がつき、牽牛よりもずっとたくましく感じます。なぜ体つきまでわかるのかというと、彼が半裸状態だったからです。付け加えると、その彼の隣にいた織姫も、美しい肢体をあらわにしていました。もうおわかりでしょうが、二人がいたのはもちろん寝台の上です。
 そこで何をしていたのか? 野暮な質問は控えましょう。そうですね、まあ、ナニです。

 織姫の肩を持つわけではありませんが、でも、だって、一年ですよ、一年。離れてみればわかりますが、これは途方もない時間なのです。
 離れた時間と距離が長いほど、恋は激しく燃え上がるもの?
 それはそうかもしれませんが、行くあてのない想いばかりが募れば、寂しくもなるでしょう。ぬくもりを求めたくもなるでしょう。
 織姫である前に一人の女性であった彼女は、一年にたった一度しか会えない夫よりも、三百六十五日、いつでも会える身近なイケメン外人・デネブさんを選んでしまったのです。

 そんな現場を目撃してしまった牽牛は、猛スピードでその場から立ち去りました。牛飼いを職とする牧歌的な彼が、横恋慕された妻を取り返すことなどできるはずがありません。泣き寝入りです。
 文字どおり天の川のほとりで、延々と泣き続けました。
 七月七日、七夕の日になるたびに牽牛はこの出来事を思い出し、毎年毎年涙に暮れるのです。彼の涙は川に流れ、そこに沈んだ星たちをよりいっそう美しく輝かせるのでした。

 さあ、天の川の煌きの理由がわかったところで、先程お渡しした短冊を出してください。一人一枚ずつ行き渡っていますね? あとでこの笹にみんなで結びましょう。
 はい。じゃあみなさん、お願い事を書いてください。もちろん書くことはもう決まっていますよね。
 ――そうです。「牽牛がんばれ」

FIN.

 


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