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碧乃さんの冥探偵日誌

依頼その5の8


 先程から同じ話題ばかりで申し訳ないが――
 ヒーローにもっとも大切なもの。個人的見解で言わせてもらえば、それは『タイミング』だ。どんなにかっこよかろうと、登場の時機を見誤ってしまえば台無しである。早すぎず、遅すぎず。場の流れと時を読む能力も、ヒーローたる条件の一つだ。
 さて、ここで私が置かれている状況といえば、真犯人が現れ、一度はその攻撃をやり過ごすも、再びナイフを向けられさらなるピンチに見舞われている。右腕には傷を負い、目の前には今にも襲いかかってきそうな狂神主。なんておあつらえ向きな舞台だろう。これ以上ヒーローが登場するタイミングに相応しい状況があるだろうか?

 ちらりと天井に目を向ける。四角く開いた穴からは、救いの光といわんばかりの明かりが差し込んでいる。その出口に向かって掛けられたはしごは、さしずめ天国への階段といったところか。……いや、このままでも間違いなく天国行きなのだけど。
「ことわざといえば」
 不意にかけられた声に、素早く視線を戻す。狂神主こと三鷹さんは、相変わらず崩れることのない笑顔でこちらを見ていた。その手に握られたナイフがあまりにも不釣合いで、異様さを際立てている。
「こういうものもあります。――善は急げ」
 それは、「では行きますよ」という断りと同意だった。
 すっとナイフが掲げられると同時に、三鷹さんが一歩踏み出す。鈍く光る切っ先は、迷いなく心臓に狙いを定めていた。三鷹さんの顔が、笑顔から無表情に変わる。ナイフの先が、真っ直ぐ私に向かってくる。その光景が、ひどくゆっくりとスローモーションのように見えた。
 よけなければ。わかっているのに体が動かない。棒立ちしているしかできない。「死」という言葉がよぎった瞬間、頭の中がうるさく騒ぎ出した。
 おかしいおかしい、こんなはずじゃなかったのに。本当ならここで助けが入るはずだったのに。そうだ、認める。私は最初からずっと助けを求めていた。助けて助けて助けて、たすけて、先生――

 ――――!

 パァン、と何かが割れるような音が響いた。私は両腕で頭を庇った姿勢のまま、しばらく動くことができなかった。
 息を殺し、じっと立ち尽くす。壊れたように早鐘を打つ心臓の音意外は、三鷹さんの声も、足音も、何も聞こえてこなかった。うつむいたまま、固く閉じた両目を恐る恐る開く。足元に転がるナイフが真っ先に目に入り、私は小さく悲鳴を上げて飛びのいた。
 何が、どうなったのだろう。
 辺りを見回すと、だいぶ離れた所に三鷹さんが倒れ、床のそこかしこに小さな丸い粒が散らばっていた。そのうち一つを拾い上げてみると、それは見覚えのあるものだった。
「これ……」
 エメラルドグリーンの翡翠の珠。とっさに左手に目をやると、先程までそこにはめられていたはずの数珠がなくなっていた。これは、その数珠の一部だ。
「護って、くれた……?」
 以前、先生のもとで不思議な力を発揮した数珠。それが、私を三鷹さんから助けてくれた?
「……う……ッ」
 部屋の隅から聞こえた呻き声に、はっと我に返る。見ると、三鷹さんが今にも起き上がりそうに身じろいでいた。
 まずい。この絶好の隙を逃すわけにはいかない。私は急いではしごに掴まった。
 途中で追いかけてくるのでは……。足を掴んで引きずり下ろされるのでは……。嫌な想像力ばかり働き、短いはずのはしごがやたらと長く感じられた。死んだと思わせておいてガバッと襲いかかってくる、なんて、ホラーの常套手段じゃないか。
 けれど、現実はそうできすぎた演出もなく(いや、ここまでの出来事がすでに現実離れしているのだけど)、私は無事恐怖の地下室から脱出することができた。そうそう、自分で言ったのだからちゃんと褒めておこう。私の反射神経と瞬発力サイコー。

 天国への階段は、神社の本殿に繋がっていた。気を失う寸前に調べていた床。それがこの地下室へ続く入り口だったのだ。殴られて気絶した私は、そのまま下の部屋へと放り込まれたのだろう。
 穴から這い出ると、急に周囲の気温が上がった。蝉の鳴き声も耳に届く。どうやら外はまだ昼のようだ。私は倒れるようにその場にへたり込んでしまった。
 動悸はまだ治まらない。殺人鬼と対峙した恐怖の冷汗と、傷の痛みによる脂汗と、暑さによる通常の汗と、とにかくいろんな汗が混ざり合って不快極まりなかった。帰ったら真っ先にシャワーを浴びたい。そうだ温泉。温泉入りたいなぁ……。

「お姉ちゃん……?」

 どこからか、か細い声が聞こえた。本殿の扉の向こうに、不安そうに中の様子を窺っている小さな人影を見つける。
「祐一くん! 逃げなかったの?」
 私の声に気がつくと、祐一くんはほっと表情を和らげた。私は慌てて立ち上がろうと床に手を突く。一刻も早くこの場を離れなければ。こういう場面では、一瞬の気の緩みが命取りになるのだ。
 ……そう、わかっていたのに。祐一くんの引きつった表情を見て、私は初めて自分の愚かさに気がついた。
 一瞬の気の緩み、注意不足、詰めの甘さ。ホラー映画で殺される原因は、ほとんどがこの三つに当てはまるだろう。私の場合は――詰めの甘さだった。

 がくん、と立ち上がりかけた体が前のめりに崩れる。両手を床に突いた体勢のまま固まった。足首に、違和感。みしり、と背後で何かが軋んだ。
 首が、さび付いたネジのように動かない。それでも恐る恐る、後ろへと向ける。
「ひ……っ」
 ホラー、ホラーと散々言ってきたけれど、これこそまさにホラー映画のワンシーンだった。暗闇から伸ばされた手が、私の足首を掴んでいる。
 馬鹿だ。本当に馬鹿だ。はしごを掛けたままにしていた。
 自分の詰めの甘さを嘆いても、もう遅かった。床に開いた穴からはしごを軋ませ、姿を現したのは三鷹さん。情けないことに私は、足首を掴む手を振り払うことも、立ち上がって逃げることもできなかった。やすやすと仰向けに押さえつけられ、馬乗りにされる。三鷹さんの両手が私の首にかけられた。
「あなたのせいで何もかも台無しですよ。死んで償いなさい。今、すぐに」
 狂気と殺意をはらんだ目と、不自然なほど弧に歪められた唇。人の笑顔をここまで恐ろしく感じたことはなかった。
「あ……ぐ……ッ」
 苦しい。
 視界が狭まると同時に、首から上がかっと熱くなった。息が、できない。目が、霞む。口をぱくぱく動かしても、ひき潰したような声が漏れるだけだった。腕が鉛のように重く、床からちっとも上がらない。意識が薄れてきた。私はこのまま、死ぬ――?



 ふわり、と体が軽くなった気がした。
 次の瞬間、音と振動が全身を駆け抜け、一瞬にして意識が引き戻される。何か重いものが思い切り床に叩きつけられたのだと理解したのは、それからややあってのことだった。
「――! ――!」
 ぼやけた視界に映り込んだ人影が、何か必死に叫んでいた。私の肩を掴み、しきりに揺さぶってくる。やめてやめて、頭がくらくらする。

 ――――碧乃君!!

「せ、せ……?」
 言葉にならず、私はごほごほと咳き込んでしまった。声がかすれて上手く出せない。
「碧乃君!? 碧乃君!?」
 聞こえてる、聞こえてるってば。
 意識が明瞭になるに連れ、目の前の人物の輪郭もはっきりとしてきた。見慣れた顔、聞き慣れた声。ずっと待っていた、遅すぎるヒーロー。
「先生……」
「あっ、碧乃君! 大丈夫!?」
 心配そうに覗き込んでくる先生の手を借り、体を起こす。
「大丈夫…………じゃ、ないですよっ!」
 ぼすん。思い切り先生の胸元を殴りつける。
「遅すぎ! 遅すぎですよっ! 今まで何やってたんですか! どこでどうしてたんですかっ! そんなんだからヘタレなんて言われるんですよ! バカバカバカバカヘタレ三十代!」
「うわっ、ごっ、ごめん!」
 もう止まらなかった。先生を殴る手も止まらないし、口から溢れ出る言葉も止まらない。こんな弱音――まるでか弱いヒロインみたいな台詞――なんて言いたくないのに、こんな姿見せたくないのに、どうしようもなく止まらなかった。
「私が、今まで、どんな目に遭ったと思って……っ」
「ごめん、ごめんってば」
「どんだけ怖かったと思って……っ」
「うん、ごめん。本当にごめん」
 先生はただ謝るだけで、殴り続ける私を止めようとはしない。
「ごめん、碧乃君。僕が悪かった。これでもできる限り急いで来たつもりなんだけど……回りくどいことなんてしていないで、真っ先にここへ駆けつけていればよかった」
「…………」
 見ると、先生の髪はボサボサで、今も肩で息をしている。なりふり構わず走ってきました。そんな姿の先生と目が合う。
「……あっ、なっ、泣いてなんかないですからねっ!」
 私はとっさに顔をそらした。慌てて手の甲で目をこする。さっきまでの言動がとてつもなく恥ずかしく思えてきた。
「わっ、私がこんなことで泣くわけないじゃないですかっ! 怖かったっていうのも取り消し! あんなの嘘ですよ嘘! なに信じてるんですかっ!」
「いや、僕は何も言ってないけど……」
 そこにはいつも通りの、少し困ったようなへらりとした先生の笑みがあって、ああ、私は助かったのだと、改めてそう実感した。神隠しの犯人も明らかになり、祐一くんも無事――あれ? そういえば祐一くんは? それに、先程まで私を殺そうとしていた三鷹狂神主は?
 そう思って慌てて辺りを見回そうとした時だ。どこか遠くから、男の子の悲鳴が聞こえてきたのは。
「今の、祐一くんの……!?」
 お互い顔を見合わせ、緊張が走る。瞬時に事態を理解し、私と先生は本殿の外へ飛び出した。すると、思いがけない二人組と鉢合わせになる。
「佐伯さん! 茂さん!」
「おお、芹川さん! 無事だったんだな。シュウの奴、いきなり走り出すから……」
 佐伯さんの言葉を遮るように、再び悲鳴が上がった。真っ先に反応したのは茂さんだった。
「裏だ!」
 そう言って本殿の裏、土蔵のあるほうへと走り出した。私と先生がそれに続き、事態を呑み込めないまま佐伯さんも追いかける。
 茂さんが向かったのは蔵ではなく、そのさらに裏だった。すぐ背後に木々が覆い茂り、神社の敷地とその周りを囲う山とのちょうど境目。そこに三鷹さんと祐一くんはいた。嫌がる祐一くんを無理やり引きずるその光景は、まさしく誘拐犯と連れ去られる子供だった。
「親父! もうやめろ!」
 茂さんが叫ぶ。三鷹さんは私たちに気づくと、祐一くんを楯にするように自分の前へ突き出した。そして右腕をその首に回す。ちょっと力を込めれば、祐一くんの細い首など簡単に折れてしまうだろう。
「これは朱鳥様の使いである私の役目なんだ。茂、お前もわかっているだろう? 無垢なる魂を捧げなければ、中栖村に災いが訪れる」
「そんなわけないだろ! 目ぇ覚ませよ親父!」
「ああなんということだ。朱鳥様の使いの血を引くお前が神聖なるこの儀式を理解していないとは。なんと嘆かわしい」
 抑揚のない声で言葉を紡ぎ、カクカクと口を開閉させるそのさまは、まるでパペット人形のようだった。目の前の三鷹さんからは、人間味がまったく感じられない。その異様さは、状況を把握しきれていない佐伯さんにも伝わったようだった。
「おいシュウ、あいつが犯人だったのか……?」
「ああ」
 先生は頷いた。そして三鷹さんを睨む。
「その子を離してください、三鷹さん。あなたのやっていることは神聖でもなんでもない。ただの犯罪です」
 その言葉に反応するように、三鷹さんの顔から表情が消えた。そして次の瞬間、そこに不気味なほど穏やかな笑みが浮かんだ。
「あなたが連れてきた助手さんのおかげで、私の計画は台無しですよ。本来ならすべて秘密裏に行わなければならないのに。どうしてこれが私の儀式だとわかったんです? 参考までにお聞かせ願いたいですね」
 この期に及んでもまだ儀式などとのたまう目の前の男に、私も佐伯さんも、先生までも不快感と怒りをあらわにする。茂さんは自分の父親の行いに、苦々しげに表情を歪めていた。
「――まず一つ」
 それでも先生は、努めて冷静な口調で話す。
「丹羽さんの家で初めて会った日、『鴨下さんのお宅の子供が行方不明になった』と聞いただけなのに、あなたはそれが祐一くんだとわかりました。普通、兄弟がいたら、幼い弟のほうがいなくなったと思うものでしょう。
 それから次に、祐一くんが行方不明になった時のアリバイを訊いた時のことです。三鷹さんは社務所で12時の有線放送を聞いたと言いましたが……そんなはずはありません。確かにあの日の朝、雁谷さんが亡くなり、お悔やみが流れるはずでした。けれど役場への届出が遅れたため、12時の放送には間に合わなかったんです。お葬式の日取りに少し手間取ったそうで。だから、あの時間に有線放送を聞いているはずがないんです」
 先生の語る理由を聞いて、三鷹さんはさもおかしそうにくすくすと笑った。
「なるほどなるほど。それはまた随分と説得力に欠ける理由ですねぇ」
「ええ。なんとなく祐一くんだと思った、聞き間違えだったと言われれば、どちらもそれまでです。決定的な理由にはなりません」
 小馬鹿にするような三鷹さんの物言いにも、先生は取り乱すことなく続ける。まるでその反応を想定していたかのようだった。
「けれど、あなたを見て確信しました。言い逃れできない確かな証拠が僕には見える」
「……ほう?」
 揺るぎない先生の言葉に、三鷹さんの表情がわずかに強張った。
 すっ、と先生の腕が持ち上げられる。その指は、まっすぐ三鷹さんの背後を差していた。

「あなたの後ろに、将人くんとつぐみちゃんがいる」

「――!?」
 恐怖に顔を引きつらせ、三鷹さんはとっさに背後を振り返った。
 その一瞬の隙を突いて佐伯さんが飛び出す。緩んだ三鷹さんの腕から祐一くんを引き寄せると、すぐに三鷹さんから離れた。「大丈夫か?」という佐伯さんの問いかけに、祐一くんは小さく頷いた。
「く……ッ」
 ぎり、と悔しげに奥歯を噛み、三鷹さんが先生を睨みつける。
「ばっ、馬鹿馬鹿しい! 私の後ろに幽霊がいるとでも言うのか!?」
「おや? 朱鳥様は信じても、幽霊は信じないんですか?」
「神たる朱鳥様と幽霊などを一緒にするな!」
「信じる信じないはあなたの勝手です。でも、僕の言っていることは本当ですよ。あなたに殺された風見 将人くんと渡 つぐみちゃん、二人は今も成仏できず、あなたの背後に佇んでいます。……とても、哀しげな目をして」
 脅しをかけるでも、怖がらせようとするでもなく、先生はただ淡々とそう述べる。目にしているものをそのまま口にしているかのように。
 私には見えない。おそらく佐伯さんにも茂さんにも見えていないだろう。けれど、そうはっきり断言する先生の言葉を聞いていると、それが嘘だとは思えなかった。
 三鷹さんも思い当たる節があったのか、それとも心のどこかにやましい気持ちがあったのか、そわそわと背後を気にしている。その目は宙を泳ぎ、明らかに焦っている様子が見て取れた。ぶつぶつとしきりに何か呟いているが、ここまで声は届かない。まぁ聞かなくてもその内容はだいたい想像がつく。きっと神たる朱鳥様に助けを請うているのだろう。
「観念しろ三鷹! お前の電波話は取調室でゆっくり聞いてやる!」
「いい加減に目を覚ませよ親父!」
「今までやってきたこと、きっちり償ってもらうわよ!」
 佐伯さん、茂さん、私。三人が一斉に食ってかかり、三鷹さんは思わず後ずさった。それを追うように先生が一歩踏み出る。私たち三人とは違い、その表情から怒りは感じられない。むしろ、どこか哀れみを含んだ口調で告げた。
「三鷹さん……朱鳥様はきっと、生贄なんて望んでいない」
「だっ、黙れ! 知ったような口を利くな! 私は雛守神社の人間だ。この村を守るべき、朱鳥様の使い――!!」
 ぐらり、と体が後方に傾き、三鷹さんの言葉はそこで途切れた。さらにもう一歩後ずさったその瞬間、

≪バサ……ッ!!≫

 赤い、大きな影が視界を横切った。
 影は襲いかかるように三鷹さんの頭上をかすめ、バランスを崩した三鷹さんは背中から倒れ込む。しかし、後ろに支えは何もなく、あるのは木々が立ち並ぶ急斜面だけで――
「わぁッ!?」
 短い悲鳴を上げ、三鷹さんはそのまま斜面を転がり落ちた。ザザザッと草木を掻き分ける音が続き、やがて遠ざかり、そして消えた。
 一瞬の出来事に、その場にいた全員が呆然と立ち尽くす。
 横切った影は消えていた。そして、ついさっきまで目の前にいた狂神主もいなくなっていた。
「……おっ、親父!?」
 真っ先に声を上げたのは茂さんだった。弾かれたように飛び出し、先程まで三鷹さんがいた場所へと走る。私たちも時間差で我に返り、慌ててその背中を追った。
 茂さんが覗き込んだ先は、薄暗い山の中だった。落ち葉と枝が敷き詰められた斜面に、獣道のような不自然な跡ができている。そしてその先に、茶色と緑だけの風景には不釣合いな、白と浅葱色があった。周囲の色から浮き出るようなそれは、うつ伏せに倒れた三鷹さんだった。
「親父!」
 またしても茂さんが真っ先に斜面を駆け下りる。先生と佐伯さんもそれに続いた。私もすぐに追おうとした、が。
「あっ、ゆ、祐一くん……!」
 振り返ると、取り残されたようにぽつんと佇む姿があった。何が起こったのか理解しきれていないのだろう、不安げな表情を浮かべている。私は思わず駆け寄り、その小さな体を抱きしめた。
「ごめんね、怖かったよね。私がしっかりしてないから、あんな危ない目に遭わせちゃって……」
「……ううん。お姉ちゃんのおかげで助かった」
 そう言うと、祐一くんは私の腕をほどいた。恥ずかしそうに一歩下がり、それから顔を上げてにっこりと笑う。
「かっこよかったね、あの人」
「え?」
「神主さんにパンチして、お姉ちゃんを助けてくれた人」
「……パンチ?」
 その言葉で気がついた。
 三鷹さんに絞め殺されそうになった時、体が軽くなった瞬間に届いた音と振動。あれは、先生が三鷹さんを殴り飛ばしたのだ、と。
 そういえば、ぼやけた視界の隅で三鷹さんがうずくまっていたような気もする。あの時は助かった、という思いと、……先生が来てくれた安堵感で、それどころではなかったけれど。祐一くん視点で見たかったな、とちょっとだけ残念に思った。
「……うん、かっこよかったね」
 体力なさすぎだけど、根性なさすぎだけど、助けに入るタイミングも遅すぎだけど!
 ……でも、それを全部チャラにできるくらいかっこよかった。だって、なんたってあの人は――(ヒーロー? いやいやまさか)

 先生なんだから。

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